ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

イギリス人演出家によるジャパネスク・シェイクスピア@ジョン・ケアード演出 帝国劇場『ナイツテイル』

ミュージカル界のプリンス井上芳雄さんと帝劇『Endless SHOCK』で誉高いジャニーズの堂本光一さんが共演する話題作が帝国劇場で公演中です。日本ではかなりマイナーなシェイクスピアフレッチャー共作『二人の貴公子』、チョーサーの『騎士の物語』、ボッカッチョ『Teseida』を下敷きに、世界的に有名な演出家、ジョン・ケアードが手がけたオリジナル作品です。

二人の貴公子

他のキャスト陣も豪華で、なかなかチケ難公演だったようですが、幸運にもチケットが手に入り、行ってきました。わたしはジョンの演出する作品のファンなんです。

以下長めですが公式のあらすじから。

 

 

物語

テーベの騎士で従兄弟同士のアーサイト(堂本光一)とパラモン(井上芳雄)。2人は厚い友情を誓い合い、騎士としての誇りと名誉を何よりも大切に生きていた。戦争により敵国アテネの大公シーシアス(岸祐二)に捕虜として捕えられるも互いに励まし合いながら同じ牢獄で過ごしていた2人は、ある日シーシアスの美しき妹・エミーリア(音月桂)を牢獄の窓から見掛け、同時に恋に落ちる。だが、アーサイトは追放され、テーベに戻るよう命じられる。アーサイトは残ったパラモンがエミーリアに近づくのではないかと、一方パラモンは祖国に戻ったアーサイトが兵を率いて攻め入りエミーリアを奪うのではないかと、互いに敵愾心を抱きながら、愛するエミーリアを必ず手に入れると決心し道を違えて行く。

テーベへ戻る道中で、アーサイトは森の楽団を率いるダンス指導者ジェロルド(大澄賢也)に出会う。エミーリアの誕生祝賀の稽古をしている一座に名を偽りダンサーとして加わった彼は、再びエミーリアに出会うチャンスを得る。その頃パラモンは、食事の世話をしてくれる牢番の娘(上白石萌音)の手引きにより牢獄を脱出する。牢番の娘は脱獄という危険を冒すほどパラモンを愛していたが、ふとした瞬間にパラモンが去ってしまい、ショックのあまり正気を失ってしまう。

エミーリアに再会したアーサイトは、シーシアスが愛するヒポリタ(島田歌穂)の計らいも有り周囲には正体を隠して彼女に仕えることになったが、シーシアスやエミーリア達と狩猟に出かけた森で、無二の友であり今や恋敵となったパラモンと出会う。艱難辛苦を経て再会した2人は、どちらがエミーリアを得るにふさわしいか男か、愛と名誉そして生死を賭けて決闘を挑むのだった―。

帝国劇場 ミュージカル『ナイツ・テイルー騎士物語ー』

 

舞台全体について

舞台美術について。背景は黒と濃い茶の紙に木枝がまだらにちりばめられ、中央に扇型(蜘蛛の巣も思わせる)の大きな木枠、左右に階段状の足場が配置されています。オケは舞台前方オケボックスと、和太鼓等和楽器が舞台奥に組まれた左右の足場に配置。舞台中央は円形で、開演直後にそこから焚火の火がともります。

音楽はオケと和楽器のコラボ、と言った趣で、ジャパネスクを意識。しかしただの日本趣味によった風ではなく、ポップスも多用。

衣装も日本の甲冑、鎧、着物等を思わせるデザインで、こちらも日本を意識。ただ、どちらかというともっと泥臭く原始的な印象が近いかも。

踊りに関してはモダンを取りいれている部分もあれば、マイムや民族的であったり…と様々なティストが混在したものになっています。(ダンサー陣の踊りはどれも素晴らしい、特に「鹿」のマイム)転換時に土着的な儀式を思わせる弧を描いた集団の踊りが取り入れられているのが印象的でした。(デヴィッド・パーソンズ振付)

一見様々なテイストが混ざりつつも、舞台全体のまとまりが損なわれないのは、ジョン・ケアードの手腕ですね。

 

『二人の貴公子』のこれまで

さて、シェイクスピアは知っている、なんなら見たことがあっても、『二人の貴公子』の原作を知っていて、読んだことがある人は少数派ではないでしょうか?舞台化されたことも日本では僅かに数えられるほど。物好きしか舞台化しないのでは、という作品ですが宝塚の小公演と、蓬莱竜太さんが脚色したオリジナル作品がこれまで上演されています。いずれにせよ商業では滅多に上演されない作品だと思います。

『二人の貴公子』 | 月組 | 宝塚バウホール | 宝塚歌劇 | 公式HP

愛之助、獅童が『赤い城 黒い砂』で意気込み | 歌舞伎美人(かぶきびと)

何故上演されていないか…シェイクスピアの共作と認められてはいるものの、知名度もなく、また戯曲の出来が悪いからかと思います。原作を読んだ私のような物好きな方なら、この戯曲のラストは唐突で面食らうでしょうし、牢番の娘の扱いも酷い。言ってみれば原作は「後味悪い」作品なのです。

 

ジョン・ケアード流ジャポネスク・シェイクスピア

そのような「後味悪い作品」からジョン・ケアードが井上芳雄堂本光一の二人にあてて作りあげたこのナイツテイル、なんということでしょう、舞台から受ける印象は爽やかでユーモアたっぷり。原作を読んでいると一体いつアーサイトとパラモンが猜疑心を募らせ、バチバチ敵対し合うのか…?と気になってしまうのですが、確かにおのおの猜疑心を募らせる場面も、敵対する場面もありますが、途中アイスブレイクしてからは終始ユーモラス。土着的な雰囲気のセットの中で行われる芝居は意外とポップで明るい。アーサイトとパラモン、ふたりは同じエミーリアという女性を愛してしまった。でもふたりの絆は固く、例え困難が待ち受けようともその友情は変わらないのです。ふたりの微笑ましさに客席からも終始笑い声が。

クライマックスはドラマティックでありながら、原作の打ち切りEDではなく誰もが幸せな大団円に。実はこの結末もまた、他のシェイクスピア作品ではお馴染みのエンディング方式です。一観客としてその結末を微笑ましく受けとめられるのが幸せ。

舞台装置や演出は先述の通りジャポネスクを意識、土着的で少々暗めですが、日本的なモチーフを取り入れながらも舞台全体の統一感が失われておらず、ミュージカル化も非常にナチュラル。クライマックスのダイナミズムも素晴らしい。土着的な信仰、儀式を思わせます。今井麻緒子さんの訳詞も、非常に耳馴染みが良い。

今回が日本初演、とあちこちで宣伝しているので、今後日本発・海外での上演も視野に入れているかもしれません。甲冑や着物を模した衣装、演出の日本的要素、例えばクライマックスの旗取合戦等は確かに日本文化にインスピレーションを得たものですが、上手くアレンジされており、海外の俳優達の肉体で演じても割とすんなり演じられるのではないでしょうか。『ナイツテイル』はジョン・ケアード流日本発・ジャパネスク・シェイクスピア。しかし実は今回の演出キモは俳優たちの「肉体」「身体表現」にあると思うのです。流麗なダンスによる転換、迫力の戦闘シーン、そして終幕のダイナミズム。その魅力は役者が変わってもパワーダウンすることはないと思います。

 

キャストについて

ジャンルは違えど同じ「プリンス」として名を馳せる堂本光一さんと井上芳雄さんのふたり。光一さんを生で拝見したのは初めてでしたが(これでもKinKi世代)、思っていた以上に線が細く小柄な方でした。出演者の中でも際立って小柄だったかも…。しかし帝劇の『Endless SHOCK』で長年主演を務めたキャリアは伊達じゃない。キャリアに裏打ちされたスター性を感じさせ、舞台上で存在感を発揮。得意のダンスではもちろんのこと、本来歌が得意なスターさんではないと思いますが、かなり歌の面も健闘されてましたね。芳雄さんと声の相性が良いのもあるのかな。

井上芳雄さんは舞台映えする恵まれた体躯に歌は何が来てもこの人に任せておけば安心!という頼もしい仕上がり。アーサイトとパラモンの曲では高音を担当、しっかり光一さんをフォロー。劇場に響き渡る声量も素晴らしい。こうして書くと凸凹コンビに見えますけれど、確かに(体格面では割と)そうなんですが、不思議とこの二人のバディぶりに違和感ないんですよね。お二人のチームワークの良さがそう感じさせるのかもしれません。

他に印象的だったのは女性陣。この物語は“いつまでもバカやってる男たち”と“知的な(でも哀しみを背負った)女性たち”の物語。アマゾンの女王ヒポリタの影がありつつ凛とした佇まい。見せ場は少ないながら、島田歌穂さんはどんな舞台でもその場を浚う存在感と歌唱力を持っている。そして何と言ってもヒロイン、音月桂さんの魅力的なこと!コケティッシュでありながら優しさと力強さを併せ持つ。前回ジョン・ケアード演出『十二夜』ヴァイオラを演じておりましたが、エミーリアの優雅で品のある美しさに、アーサイトとパラモンでなくとも釘づけでした。原作とは大きく役回りが変わった牢番の娘は上白石萌音さん。原作だとハムレットのオフィーリアのような悲劇的なキャラクターで、今回もその存在が闇に落ちるシーンがあるのですが、手堅く演じてましたね。お芝居も歌も踊りも出来る。かなり小柄なので役は選ぶかと思いますが、今後もミュージカルや歌での活躍を期待します。

 

全体的に舞台美術から音楽、歌にダンスとかなり力の入った公演でした。役者は皆なかなかの実力派揃い。ジョン・ケアードの直近の演出は芸劇『ハムレット』で、その時も日本文化に着想を得た衣装や音楽が用いられています。今回の上演も、ジョンが「日本でやるからこそ」、のジャパネスク・シェイクスピアを模索しているような印象を受けました。今後ジョンのシェイクスピア作品はどう進化していくのか。日本人演出家のそれとは趣きが異なるジョン・ケアードの演出のシェイクスピア作品を、また日本で見られることを期待したいと思います。

長くなりましたので今回はこのあたりで。ナギナリコがお届けしました。

 

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せっかく撮ったのに画質が悪くて…記念に載せておきます。

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