ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

もっと妖しく美しい美弥るりかが見たい…!!@宝塚月組『瑠璃色の刻』

 月組二番手スター、美弥るりかさんの単独主演公演が先日スカイステージで初放送となりました。今回は映像での観賞ですが、この公演のレビューをお届けしたいと思います。

 

 

公式あらすじ

ヨーロッパ史に今も多くの謎を残すサン・ジェルマン伯爵。ある者は彼を不老不死の超人といい、またある者は稀代の魔術師だという。時空を超えて生きる錬金術師であり、比類なき予言者、そして正体不明の山師──。
ふとした事から謎多きその伯爵になりすました男は、瞬く間に時代の寵児となり、いつしか宮廷での立場は大きなものになっていく。しかし、やがて押し寄せる革命の渦に巻き込まれ…。18世紀フランスを舞台に、「サン・ジェルマン伯爵」として虚飾に生きた一人の男の数奇な生き様をドラマティックに描くミュージカル。

月組シアター・ドラマシティ公演 ミュージカル『瑠璃色の刻』 [DVD]

月組公演 『瑠璃色の刻(とき)』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

 

舞台全体について

舞台美術は原田作品でお馴染み松井るみさん。実在のシャンポール城のそれを模した螺旋階段をぐるっと円形に配し、まるで盆が有るかのように展開に合わせ回転する大型のセットが組まれています。二幕ではこのセットが半分に分れ、どことなく不穏な印象に。音楽はこれまた原田作品ではお馴染み、玉麻尚一さん。ドラマティックな楽曲はソロ、デュエットともに難曲揃い。物語を盛り上げます。

 

ストーリーと場面づくり

物語はサンジェルマン伯爵とそれに魅せられた人々の物語、とでも言いましょうか。

サンジェルマンという正体不明の人物をフランス革命という宝塚でお得意な時代に寄せ、賢者の石に纏わるミステリアスな物語に構成した、という点は非常に面白い試みであったと思います。オープニングや第一幕クライマックス、第二幕冒頭では、シモン(サンジェルマン伯爵)が賢者の石の魅せられ、取り憑かれていく様が歌、ダンス、舞台美術の転換…で劇的に表され非常にドキドキする構成。宝塚でお馴染みのフランス革命の登場人物たち、マリー・アントワネットルイ16世、ネッケル、ロベスピエールも登場しますし、ファンには親しみが持てる題材ですね。後半はフランス革命を中心にストーリーが紡がれ、シモンは王宮側、親友ジャックは革命勢力側として革命の動乱に巻き込まれて行きます。

 

瑠璃色の刻の作りの「甘さ」

ここからちょっと長々と辛口で行きます。わたしはどうも原田さんの芝居づくりの「詰めの甘さ」や「安直さ」が気になるんですよね…。読売演劇大賞を受賞した宝塚期待の演出家なのだから、一ファンとしてもっと頑張って!とお尻を叩く気分で毎回観ています…!(過去記事も結構辛口です…)

原田作品の題材は数々の歴史や創作の有名人を扱い守備範囲も広い。きっと勉強熱心な方なんだと思います。さらにスタンスとして、これまでの「宝塚の守備範囲」から敢えて「外す」ような題材を好む傾向がある。凰稀かなめさん主演『ロバート・キャパ 魂の記録』、望海風斗さん主演の 『アル・カポネ —スカーフェイスに秘められた真実—』

轟悠さん主演『For the people —リンカーン 自由を求めた男—』 等、硬派な男役像、社会派な物語を好む。

そういう意味で今回は宝塚の観客が求める「宝塚らしさ」に寄せた題材でした。…しかし、これもまた原田先生のあるある…なんですが、やはり「ストーリーが弱い」。

この芝居、見せ場であるはずのミステリアスな要素(賢者の石、サンジェルマン伯爵)の処理が甘く、各キャラクターのエピソード作りや見せ方が物足りないのです。楽曲がとても素敵なのに歌詞もどこか抽象的で何を歌っているのかわかりにくい印象。どんなにドラマティックに歌わせても、そもそもキャラクターの心理を順に観客が追わせ、キャラクターの気持ちに寄り添える物語がなければ観客は戸惑います。

この芝居で一番キャラクターがわかりやすいのはアデマール。両親を亡くし、御前公演でマリー・アントワネットに踊りを気に入られ、王宮に出入りするようになり、復讐を決意。ロベスピエール、ネッケル、ルイ16世あたりはエピソード自体物足りないものの、本筋ではなく、観客の中である程度イメージが出来上がっており、そこに助けられている。「でも」肝心のオリジナルキャラ、シモンとジャックは足りていない。

何故旅芸人一座を抜けたのか?

どういう個性を持っているのか?

どういう性格なのか?物語からわかりずらい。

一幕の段階でシモンとジャックがサンジェルマンを語り貴族や王族を騙すシーンの台詞、改善の余地ありです。観客としては大ボラ吹きと「本物」の違いをもっと納得させて欲しいんです。そこが作家の技の見せ所で、ウイットに富んだ台詞であれば役柄もチャーミングに映るはず。

賢者の石とはそもそも何だったのか?

サンジェルマンとはどんな人物か?

実はシモンはサンジェルマン伯爵として王宮で意外と「大したこと」をしていない。

マリーの良き相談相手ではあったし、貴族たちにも持て囃された。「でも」王宮を手中に収めようとした訳じゃない。

では賢者の石は、アントワネットはシモンにとって一体どういう存在だったのか?そこがこの物語では「ふんわり」している。

再びシャンポール城の一室で夢から覚めたシモン、アデマール、ジャック3人でこの物語は幕引きとなります。なら、恋愛関係でなくとも初めから3人の関係性が分かるエピソードを入れればいいと思うのです。フランス革命は歴史的事件ですが、この芝居では「一要素」で「背景」なのですから。どうもフランス革命やアントワネット周辺を描くことに時間を割いたため主要三キャラが割を食っていた印象があります。

…まだまだ言いたいことはあるのですが(苦笑)、物語についてはここまでで。

 

原田先生は宝塚新進の期待の演出家だからこそ、もっと一作一作丁寧に作って欲しいな、と思います。決してダメダメではなく(という言い方も失礼ですが)、センスが良くて素敵なところも沢山ある演出家だからこそ、ね…という一ファンからの戯言でした…

 

キャストについて

美弥るりかさんはこの公演が満を辞しての単独主演。ウエービーな長鬘で妖しげな美しさ、時折見せる流し目はなんて蠱惑的なんでしょう。だからこそ…!こう、もっと闇を抱えて苦悶する様子や、闇落ちして言葉巧みに周りを騙し、王宮を手中に収め掌で転がしたり、艶めいた場面を見たかった…!と思うのは贅沢なのぞみでしょうか。いや、この芝居でもあるにはあるんですよ。でも…!美弥るりかさんなら…「あの」みやるりさんなら…もっと…!もっと妖しく色濃く出来る…!!でも役柄が小さい…!!

上級生の実力派スターさんだからこそ、役がどこか子どもっぽいが非常に残念です…。

二番手格月城かなとさんはこの公演で月組デビュー。硬派な存在感でしっかり芝居心をアピール。今は更に舞台姿が洗練されている印象です。ヒロイン格の海乃美月さんはダンスと娘役力の方。線の細い娘役さんですが、芯の強い役が似合う。大技イタリアンフェッテも素晴らしく、フィナーレのデュエットも輪っかのドレスとは思えない激しめな振りを綺麗に捌いて踊る実力派。あとはもう一人のヒロインとも言える白雪さち花さん。宝塚作品のマリー・アントワネットはやはりヒロインとして立つ。それだけ無視出来ない大きな役。センターで大曲を歌い立ち去る、凛とした美しさが印象的でした。ロベスピエール役は宇月颯さん。老執事テオドールは若干無理があったと思いますが(ここ輝月さんとかじゃダメだったんですかね…)、センターで歌い踊る姿はいつだって隙なくカッコイイ。本当退団が惜しまれます…

おわりに

原田諒先生の最新作はまもなく東京公演が開幕の『MESSIAH(メサイア) −異聞・天草四郎−』こちらなかなか好評のようです。

元々中小劇場の演出で成果を出している方ですし、劇的な場面も作りも上手い。舞台の絵面の美しさもある。でも脚本は…キャラクターは…というのがファンの間の評価だと思います。どうしても「見せたい場面」のためにキャラクターを動かしているようなストーリーになってしまうんですよね…

わたしは原田先生、是非一度、洋物ショーを作って下さい…!と切望していますが(今回のショー場面も素晴らしかった…!そう思っているファンのかた多いですよね?ね?)とりあえずはもうすぐ観劇予定のメサイアを楽しみに待ちたいと思います。良い意味で期待を裏切ってくれますように。

 では今回はこのあたりで。次の宝塚の記事は凱旋門/ガトボニをお届けできれば、と思います。本日は月組エリザベートがいよいよ初日!遠征を予定しています。初・生エリザにドキドキです。

だんだん更新頻度も復活すると思うので気ままにお付き合いくださいませ。ではナギナリコがお届けしました!

 

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