ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

名作芝居待望?の再演の出来は…@宝塚雪組『凱旋門-エリッヒ・マリア・レマルクの小説による-』

ご無沙汰しております、ナギです。先日閉幕しました『凱旋門/ガートボニート』、今回は芝居凱旋門のレビューをお届けしたいと思います。

 

公式情報

かんぽ生命 ドリームシアター
ミュージカル・プレイ
凱旋門
エリッヒ・マリア・レマルクの小説による-
Based on
ARC DE TRIOMPHE by Erich Maria Remarque
Copyright (c) 1945 by New York University, successor-in-interest to the literary rights of
The Estate of Paulette Goddard Remarque
Performed by permission of New York University, successor-in-interest
to the literary rights of The Estate of Paulette Goddard Remarque
c/o Mohrbooks AG Literary Agency, Zürich, Switzerland
through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo
脚本/柴田 侑宏 演出・振付/謝 珠栄
祖国を追われた亡命者たちが集う、第二次世界大戦前夜のパリ。ドイツから亡命してきた外科医ラヴィックは、友人ボリスに助けられながら、あてどなく仇敵を捜すだけの失意の日々の中で鮮烈な恋を見出す……。ラヴィックにとって生きる希望となるジョアンとの恋を軸に、過酷な運命に翻弄されながらも懸命に生きる人々の姿を、シャンソンをモチーフにした音楽を絡めて描き上げた作品。2000年に雪組で初演、主演を務めた轟悠文化庁芸術祭賞演劇部門優秀賞を受賞するなど、絶賛を博した傑作ミュージカルの待望の再演となる。

雪組宝塚大劇場公演 ミュージカル・プレイ『凱旋門』 ショー・パッショナブル『Gato Bonito?』 [Blu-ray]

雪組公演 『凱旋門』『Gato Bonito!!』 | 宝塚歌劇公式ホームページ 

一ファンの戯言

感想前にちょっと自分がたりを。

宝塚ファン歴二年(まだ二年!)程度で、でも今まで、自分が宝塚に捧げてきた時間と思い(とお金)は非常に濃いものでした。文字通り「毎日宝塚漬け」の日々でしたし、ファン歴の浅い私でも、宝塚の作品、上演歴に大分詳しくなれました。けれど、過去の有名作はかなり見尽たな、という今でも見ていなかったのが、『凱旋門』です。私の記憶違いでなければ、ここ最近はスカイステージでも放送されていないと思います。

ということで、この作品を私はずっと観たかった。タカスペで歌われる「パララパララ…」の歌が素敵で、「名作」との呼び声も高い。どんな作品なのかな、と期待を募らせていました。だからこその、の以下の感想です。

 

「かの名作」凱旋門

待望の再演発表には非常にワクワクしましたし、元々遠征も決めていました。ただ諸事情により今回は東宝二階末席で一度のみの観劇に。そんな人間の感想ですが、少なくともこの作品、再演に値する「傑作」との評価できないと思います。

理由は端的に言えば再演する意義が感じられない舞台だったから。脚本が凡庸で、今の雪組に似合いの演目とも思えず、舞台美術をはじめ演出も冴えず。名曲と呼び声高い『雨の凱旋門』や『いのち』も素敵でしたが、特に後者はやや早急な使われ方に思えました。そもそもこの芝居、ドラマティックなのは舞台と登場人物の設定で、物語の主軸はよくある男女の恋物語ですよね。言って見れば地味でもある。難しいのは、その「よくある男女の話」の「背景にあるもの」で。レマルクの原作は━、想像でしかないですが、日常と登場人物の背負う哀しみがもっと鮮やかに描かれていたのでは?と思うのです。本来はキャラクターを通し、切実な時代背景と日常の濃淡が色濃く浮かび上がる、味わい深い作品だったのではないでしょうか。

しかし、舞台の色彩があまり変わらず、転換も盆回しが中心。派手な演目に慣れている今、この演出で大劇場の空間が埋まっているように思えなかった。二階後方だとかなり舞台全体が散漫な印象を受けました。

 

キャストについて

轟悠さん、前作ジバゴでも声が少し辛い印象でしたが、その熟練の男役芸、見応えがありました。

ただ、今回残念ながらもう大劇場で主演する力は…と思いましたね。芸に対してストイックな面って、ラヴィックのお芝居からもうかがえる。男役としての佇まい、素晴らしいの一言です。でも、宝塚の大きな劇場でセンターを張り、二階後方まで届く存在感はなかった。(この演目で、席が…というのも差し引いても)意外と若々しい芝居で、重い過去と現在を背負う壮年ラヴィックが、何故ジョアンみたいな若い女を求めるのか、その切実さが感じられなかったせいもあるかな。(これは本の問題もあるでしょうが)

相手役さんとの組み合わせも、成功しているように思えなかったですね。真彩希帆ちゃんはとても可愛らしい娘役さんですが、15下とはいえ、ジョアンは只の可愛い女か?は疑問です。ジョアンは「普通に」弱く、軽薄で、愚かな女ですが、現代の女子大生みたいな類ではないと思うんですよ。真彩ちゃんの「親しみ持てる良い子」で「賢い」面が、この芝居では逆に役の魅力を損なう結果になっていたように思いました。ジョアンを7嫌な女」に見せないのは彼女の力。でも、台詞にもあるような砕けた魅力が乏しいのです。前から気になっていましたが、笑顔がとてもキュートなのですが、その表情の種類が少ない。イメージぴったりの朗らかな役は意外と物足りなく、内に抑制された役の方が魅力的。だからこそのこれまで、あのシャロンやマリー・アンヌだったと思います。なにぶん技術が高いだけに、特に芝居は過程をとばして即最適解に辿り着いている印象があり、でも芝居ってその過程があるからこそ輝くものじゃないですか。そういう意味では残念だったかな…

次回『ファントム』、クリスティーヌは芝居で明らかな難所があります。曲が魅力のミュージカルですけれど、彼女の次のお芝居に期待したいと思います。

本来のトップのだいもん(望海風斗)、現二番手の咲ちゃん(彩風咲奈)、以下全ての役柄が役不足に見えたのも今回の雪組に合っていない、と感じた要因でした。だいもんボリスは轟さん相手にさすがでしたけどね。ちゃんと同士に見えました。柴田先生の作品は結構娘役にも大きな役がある印象ですけれど、今回は女主人フランソワーズの美穂圭子さん以外は印象的な役、なかったですね…

 

おわりに、再演の意義とは

「愛」や「いのち」というテーマ、そして戦火の~、同様の題材って宝塚でも他の演劇でもあらゆるやり方で取り上げられており、そんな芝居を「今こそ」「何故」古典的な文脈で再演したのか。アールヌーボー調のセットや回る盆の転換、ダンスシーンも美しかったけれど、それだけ…という印象でした。初演を知っている方の感想を辿ると、銀橋の使い方や曲もかなり変わっているようですね。「あの名作、凱旋門がこれ…?」というのが正直な気持ち。こういう題材を上演する以上、いくら宝塚だとしても時代性は意識するべきだと思います。戦争は日常からだいぶ遠のき、宝塚も演劇界もたくさんの作品を上演してきたのだから。制作側が轟悠に大劇場主演をさせたい、ということしか私には感じられなかった。それが今回の上演の印象で、それ以上でも以下でもない公演だった、というのが感想です。

 

…辛めに長くなっちゃいました。本来のこの作品はどんなものだったのか。レマルクの原作、読みたくなりましたね。絶版本ですが、電子書籍化しているところがあるので、こちらで読んでみようと思います。

凱旋門(上)

次回はねっとり大人のラテンショー、ガートボニートのレビューをお届けします!

 

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