ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

劇世界を壊す笑いはいらない@新国立劇場 福田雄一演出『シティ・オブ・エンジェルス』

大分間が空いてしまいました。初台の新国立劇場、~9月まで大阪新歌舞伎座で上演していた、シティ・オブ・エンジェルス』

『シティ・オブ・エンジェルズ』【公式】 (@musical_COA) | Twitter

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放送作家、演出家の福田雄一さんがミュージカルを演出。各界の豪華有名人が多数キャスティング、平日ソワレ公演もぎっしりの客席でした。有名な芸能人が多数出てるとこうもチケットの売れ行きと客層が違うのか…新国がつくってるお芝居とエライ違いです。(新国大好きです!)

今回はだいぶ遅ればせながらこちらの感想をお届けします…!

 

舞台構造と役柄

現代ハリウッドの脚本家、スタイン (柿澤勇人)中心のシーンと彼の書いたモノクロハードボイルド映画の主人公、私立探偵ストーン (山田孝之)の劇中劇の世界が入れ替わり立ち代り演じられる構成。奥に高く足場が組んであり生オケが配置(指揮は宝塚やミュージカルでお馴染み、上垣聡さん)。

キャストの多くは 現代のキャラクターと、スタインが周囲の人間をモデルに作り上げた『探偵ストーン 』の登場人物の二役を演じます。柿澤さんと山田孝之さんだけが一役。この構造はセットの色合いやスタインがタイプライターを打つシーンでわかるのですが、初見ではややわかりにくかったかも。鬘も基本的には同じ、現代のキャラをモデルに映画のキャラも描かれているので似ている。そして演出上の問題もあります(後述)

映画の筋自体は探偵もの!ミステリー!というよりか、渋く「役」を見せるハードボイルドものなので犯人に意外性はまるでなし。ハードボイルド探偵と謎のセクシー美女のお約束を楽しむための作品だと思います。

劇中劇はこんな風なので、この舞台は本来は劇の入れ子構造や転換、キャラの演じ分けを楽しむのが正解。曲は サイ・コールマン作曲。スタイリッシュで雰囲気あります。

 

ただ…今回の舞台の致命的な欠点

豪華なキャストに生オケ、音楽も良く、美術や衣装もまあ趣味が良い。なのにこのミュージカルから受ける印象がどこか安っぽく、着地点が見えないものになったのは、舞台に「異物」が多過ぎたから「異物」とは「不必要な笑い」by主に佐藤二郎さん。

このミュージカル、二人の「女にダメダメ男」が主人公で、魅力的な女性達に翻弄される様は愛嬌たっぷり。なのにキャラクターとしてはプロデューサーバディとハリウッドの大物アーウィン二役の佐藤二郎さんのアドリブ場面が結局全て持っていくので、主人公二人のキャラがどこか薄く感じてしまうのです。

客席中うけてまして、なんなら爆笑の嵐でした。でも喜劇の笑いとは、アドリブで出演者をいじったり、時事ネタで面白いことを言って笑わせるのではなく、あくまでも演者の掛け合いや芝居でのせてほしい。

芝居から分断された笑いが、劇世界の設定を分かりづらくしていたと思います。

入れ替わり立ち代わり、現代と劇中劇世界が立ち上がる、そして最後は創作の探偵ストーンと現実の脚本家スタインが言葉をまじわす…そのクライマックスの面白みがまるで感じられなかったんですよね…

 

あと、余談ですが#MeToo を時事ネタとして扱ったのはがっかりしました。現代が舞台とは言え、10年以上昔の作であり、元々のミュージカルにはないはずのネタです。某歌劇団作の舞台もですが、マジョリティ側の男性が、今尚女性にとって切実な話題を面白おかしく演出してみせるの、非常に不愉快。おもしろくないよ?客席はほぼ女性ですし、デリカシーのかけらもない演出に唖然。

 

キャストについて

ミュージカル初挑戦!を謳った方も多かった今回。そこまで酷い訳ではないのですが、曲がいかにも難しそうで、芝居歌として成立出来たキャストは少なかったと思います。

脚本家スタイン役の柿澤勇人さんが歌うと、一人手にミュージカルの世界が立ち上がる。(悲しいことに演出ゆえ浮いている位…) 役としては意外とマジメで誠実そうで「ダメ男の愛嬌」みたいな部分は薄かったかな。でもまさしくその身体はミュージカル役者のそれ…!と感動しました。

ダブル主人公探偵ストーン役は山田孝之さん。役者ぶりが小さいのが気になりました。あれ?という位素のシャイそうな面が出てた印象。もっと冒険してみても良かった。

スタインの妻ギャビーとストーンの忘れられない女・歌手ボビー役は山田優さん。舞台映えするスタイルにジャジーで雰囲気満点。…が、芝居と歌はジェットコースターみたいに不安定でやや辛い。

上手くて印象に残ったのスタインの同僚ダナとストーンの秘書ウーリー二役の木南晴夏さん!お姉さん(木南清香さん)がミュージカルに良く出てる印象でしたが、ご本人も歌える方なんですね…!役回りを理解した適切な芝居に鼻につかないチャーミングさ。バディの妻カーラと謎の女性アローラ二役の瀬奈じゅんさんは華があって、品を失わせない役作りが素敵です。 でもちゃんとコケティッシュ

AKB卒業したてのまゆゆこと渡辺麻友さんが演じたのは新人女優アヴリルとアローラの継娘マロニー役。佇まいにしろ歌や芝居にしろ、舞台女優としてはまだまだこれからかな。フレッシュでチャーミングでしたけどね!

佐藤二郎さん、勝也さんの扱いは劇薬ですね〜。佐藤二郎さんってどこでも「佐藤二郎」で、あの「肩肘張らない普通さ」を出せる凄い役者さんだと思いますが、今回は完全に使い方間違えてましたね。本当、何故これを演出家が許すのか謎……

 

次回は福田雄一節は控えめでお願いします

わたし福田雄一さん作のwowowの舞台俳優楽屋裏バラエティ、グリーンブラックスが好きなんです。

WOWOW「グリーン&ブラックス」公式 (@wowowgbofficial) | Twitter

ミュージカル愛のある方だと思ってたんだけどな…ドラマ「勇者ヨシヒコ」等、コメディの手腕で評価されている方だと思いますが、こういつも楽屋落ちみたいなネタで作るのはそろそろ限界ではないでしょうか。

それぞれのキャストのファンが観に来て、観劇して舞台自体に満たされてこそだと思うのです。興行としては成功なんでしょうが、「キャストが豪華」以外の魅力ないと次に繋がらない…

出演者の内輪ネタいじり、カーテンコールで客席降りさせるのも、まあ盛り上がるので良いですけど、本来の舞台の面白さはいずこへ…?ですよ。

わたしにはこの作品、ミュージカルとして完成度が高かったとは思えません。…なんでこじゃれたコメディがただのミーハーで安いお笑いになり下がるのか… 

とにかく今後もミュージカルや芝居を演出するのなら、福田雄一節は控えめにして、本来の劇世界を楽しませて頂きたいです(えらそう)。

 

という訳で全体的に辛めでした。お芝居の満足度って、最終的には細かいどうこうでなく、舞台全体から「何か」を受け取って帰れるか。刹那的なウケ狙いってむなしいんですよね…演劇のダイナミズムが感じられない、むしろそれが作り手によって阻害される舞台は、一観客にとっては不幸せな出会いとなりました…

 

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公演終了後なので公式も終了していまして…雰囲気だけでも、ということでいくつか記事を載せておきます!

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(朝日は有料記事です)

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