ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

虚と実の兼ね合い@劇団チョコレートケーキ『ドキュメンタリー』

1985年、後天性免疫不全症候群いわゆるAIDSの脅威が日本の水面下に拡大しつつあった。とある製薬会社の社員の一人がフリージャーナリストに内部告発を行う。そしてジャーナリストと社員は日本医学界の闇を知る…

企画公演『ドキュメンタリー』 | 劇団チョコレートケーキ

 社会派のオリジナル作品を次々発表して演劇界で独自の存在感を放っている劇団チョコレートケーキの新作芝居を観て来ました。可愛らしい劇団名ですが、骨太な作品づくりでいつも見応えがあります。

もう公演は大分前に終了しているのですが、11月にこの作品と対となる『遺産』第30回公演『遺産』 | 劇団チョコレートケーキ が上演されます。こちらも観劇予定。

 

舞台全体について

舞台上には二人がけのソファとテーブル、やや上手側奥に書斎机。周囲には何やら印刷された紙の束や本が散りばめられ、劇場入り口側に近い柱には電話が置いてあります。

かかってきた電話を男が取り、電話口の相手を部屋まで道案内するところから始まり。彼、高村吾一はフリーのジャーナリストで、電話口の相手はグリーン製薬の社員、杉崎章。今日この部屋でインタビューの約束を取り付けていました。杉崎の告発によって高村は非加熱製剤を巡る製薬会社と日本の医学界の闇を知っていく…そこから杉崎と既知の医師重岡郁夫 (731部隊関係者の生き残り)も加わり、話の軸は次第に満州731部隊に移っていく。登場人物三人だけで演じられる濃密な会話劇です。

場面ごとに背景に「内部告発」「老医師の昔話」「医学者たちのユートピア」と言った文字が浮かび上がる仕様。

上演時間1時間半程、劇団員三名だけというキャスト、キャパも100以下の小劇場楽園のこともあり、かなりコンパクトな内容でしたが、見応えはありました。薬害エイズ事件についてはなんとなく知っている程度でしたし、731部隊については前ハルビン(関連史跡があるのです)に旅行検討していた時に気軽な内容を調べた位の人間ですが、膨大な前提知識が出演者を通してわかりやすく提示されていたと思います。

説明的な台詞が多くともすっと受け入れやすかったですし、膨大な台詞をきちんと届けられる役者陣の力量が素晴らしく、飽くことなく見ることができました。芝居が濃い…!

 

フィクションと現実の兼ね合い

ただ、この作品、リアルな題材を扱った芝居としてはどうなの…と思う部分も。薬害エイズ事件から731部隊の話に繋ぐ際、「グリーン製薬には731部隊的な何かが生きている」(ニュアンスです)みたいな引きは、どうもオカルトちっく過ぎないですか、と思うのです。ミドリ十字(劇中のグリーン製薬の実在名) の創業者の内藤良一(劇中では内田)が石井四郎の731部隊に関わってたのは事実ですけれど、薬害エイズ事件そのものをそういう個々人の精神性みたいな所から語ろうとするのは、事件の実際と照らし合わせても無理があり、あれだけ大きな出来事が矮小化された気がします。

岡本篤さんの老医師の怪演ぶりはゾッとしましたが、開業医として問診する際「(731部隊の時のように)その場で解剖すればすぐわかるのに」みたいな話をしだすと、あまりにもサイコで作りもの染みた感じがしました…この芝居はホラーではなく、あくまでも現実に立脚したフィクションですよね。

全体としても、やや膨大な情報を提示することに終始した感は否めなかったですし、クライマックスでジャーナリストに医師の良心を問わせ幕引きしたのも、時間の制約があるとはいえ、少し拍子抜け。いかにも陳腐な落とし所だった気もします。

 

作の古川健さんが配布されたリーフレットで、「現実は複雑で不透明であるが、創作においてはその中で理解しやすい理由を見付けることが大切であり、演劇というエンタメにはそれが美しいことのように思える」といった内容を述べられており、それはとても共感するし、この落としどころもエンタメっぽいのかもしれません。

でもそれには登場人物にもっと説得力が欲しいな、と。今回はちょっと作り物染み過ぎてたように思います。 細部は作り物でも、そこに一筋のリアルが感じられていれば一観客としては満足するけれど、今回はストーリー上でそういう部分がわたしには見つけられませんでした。

まあ、11月の『遺産』は731部隊をいよいよ本格的に扱うのでしょうし、そのプロローグとして考えればあり、という気もします。

ということで11月の『遺産』に期待したいと思います。

 

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