ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

キャストの好演が輝る往年の名作レビュー映画のタカラヅカ化@宝塚月組 赤坂アクトシアター公演『雨に唄えば』

閉幕して時間が経っておりますが、赤坂アクトシアターで行われた月組のミュージカル『雨に唄えば』についてレビューしたいと思います。こんにちは、ナギナリコです。

 

ミュージカル『雨に唄えば
SINGIN’IN THE RAIN
演出/中村 一徳

1952年にMGM映画によって製作され、ジーン・ケリードナルド・オコナーデビー・レイノルズの出演で大ヒットしたミュージカル映画雨に唄えば』をもとに、1983年にロンドン、1985年にはブロードウェイで舞台化されたミュージカル。宝塚歌劇では2003年の日生劇場公演にて安蘭けい、2008年の梅田芸術劇場公演にて大和悠河主演で上演され、ブロードウェイ版に現代的な解釈を加えた新場面や、宝塚らしい華やかさを取り入れた舞台がいずれも大好評を博しました。サイレント映画がトーキーへと移り変わる1920年代のハリウッドを舞台に描く、明るく陽気なミュージカル・コメディが、10年振りに宝塚歌劇の舞台に登場致します。

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月組公演 『雨に唄えば』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

 

あらすじ

幕開け、大スターのドン・ロックウッドとリナ・ラモントがプレミアム試写会に訪れるところから始まります。時は1920年代のハリウッド。

背景には映像が使われ、ハリウッドの街並を再現。

ドンはドラ・ベイリーのインタビューを受けながら、自分の過去を回想します。ドンは決して恵まれた生まれ、育ちではなかったのですが、大いに脚色し饒舌に話して見せます。ドンとリナは結婚が噂されていますが、当のドンには全くその気はなし。

ある日ドンはパーティーに行く道すがらキャシー・セルダンという女性と出会います。彼女はその場ではドンに軽口を叩き、軽くあしらい、ドンはショックを受けます。

しかし、その日のパーティーでふたりは再会。キャシーは新人のレビュー・ガールだったのでした。

おりしも映画はトーキー映画への移行期。ドンとリナの新作サイレント映画も急遽トーキーにすることになりますが、リナは大変な悪声で、トーキー映画には全く不向き。試写会は大失敗に終わります。危機感を抱いたドンと親友コズモ、キャシーの三人は、映画をミュージカルに作り変えることを思い立ちますが、リナの声をどうするかが問題となって…

基本的なストーリーの流れはこのように映画版も宝塚版も同じです。

場面作り

映画版との違いとして大きいのは、(おそらく本水を使う関係から)いくつかの代表的なナンバーの位置を変えている点。(「Make 'Em Laugh」「Singin' in the Rain」等)演出に映像を用い、映画とは趣きを変えてよりスタイリッシュに。またエピソードも一部カットや前後を変えているものがありました。(リナのくだりや後半のショーアップシーン等、映画のレビューガールとのくだりは描きにくいですよね)

このことで、前半後半通し、映画ほど劇的で盛り上がりのある場面構成にはなっていない気があります。映画のレビューシーンはどれもとて長く演出も印象的ですからね。

加えている点で大きいのはドンがキャシーに歌わせ、二人の仲に亀裂が入る場面。(「雨に唄えば」を本水のため前半に、そこでこのエピソードを後半に加えたのかな?) この場面、ともすればドンというキャラクターのいやらしさが出てしまうかと思うのですが、主役二人の芝居心で乗り切っていたように思いました。(映画版はもっとシンプルな話だったと思います)

映画で多用されるアメリカンジョークもカット…等ありましたが、これはそこまで気にならないですね。より分かり易くなっていたと思います。

 

ショー作家でもある中村一徳先生演出らしく、劇中やラストに挟まれるレビューシーンも新鮮な印象こそないですが、手堅く洗練されていて見応えがありました。

しいて言うなら前半の映画の映像を何分も延々と見せる箇所は役者にそのまま演じさせるわけにはいかなかったのでしょうか?映画上の出来事、というのは冒頭を見せればわかりますし、舞台なのだから延々と映像を見せられるは違うと思うのです。

しかし全体的には月組の一体感が良く出た、まとまりある公演に仕上がっていました。

演者について

珠城りょう

珠城りょうさんのドンは鷹揚な男らしい個性を発揮、トップになってからこれまでのキャリアで培った骨太な魅力が開花。ちょっとプライド高くユーモアセンスあふれるハリウッドの人気者役がお似合い。美弥さん演じるコズモとの気の置けないバディぶり、キャシー役に抜擢の美園さくらちゃんと組み合わせも、フレッシュかつときめきが有り良い…!名場面You Were Meant for Me」、たそがれのセットで二人が愛を確かめ合うシーンはロマンチックで胸キュン場面、とっても素敵でした。(珠城さんと組む娘役はみんな‘恋する乙女顔’になってしまう不思議…)珠城さんは決して歌が得意なスターではないですが、情感がきちんと歌に乗っていましたね。そしてタップシーン、映画版で語り継がれる名場面「雨に唄えば」、「Singin' in the Rain」。もちろんタカラジェンヌジーン・ケリーのタップは比べられはしないのですが、映画版のドンが思い起こされるようなチャーミングなシーンとなっておりました。

美弥るりか

コズモ役の美弥るりかさん。体格差がかなりある珠城さんとの息の合ったタップがお見事!毎日二人でタップを踏んでいたそうですね。コズモはより軽快に踏んでいる印象があり、それも役柄に合っていますし、美弥さんの自身のスキルの高さがうかがえますね。「Make 'Em Laugh」は演者は大変ハードそうですがコロコロ場面が移り変わる楽しいシーン。

ドンとコズモの配役も、わたしは初演の安蘭けいさんと大和悠河さん、再演の大和悠河さんと蘭寿とむさんを見ているわけではないですが、本来の映画版の延長戦にあるような今回のキャスティングが一番ハマっていたのではないでしょうか。

美園さくら

美園さくらちゃんのキャシー・セルダンのキュートなこと!アメリカの古き良き女優さんのような小作りな顔のパーツ、あごのラインが可愛い。彼女、歌声は上品で大人っぽいんですよね。珠城さんとちゃんと組むのはほぼ初めてだと思うのですが、良い並びでした!ときめきもあった…!(というかお顔立ちのジャンルが似ている…?)ダンスシーンでハツラツと踊るさまも素敵!元々99期首席、なんでも出来る娘役さんですけれど、今回は想像以上にハマり役でした!実際当時キャシーのような「ゴースト・シンガー」マーニ・ニクソン - Wikipediaは存在していたんですよね。キャシーはそれを受けて作られたキャラクターなのかな。

輝月ゆうま

そして何と言ってもこの公演の殊勲者は輝月ゆうまが演じたリナ・ラモント。

【月組雨に唄えば】輝月ゆうま演じるリナ・ラモントのコメディエンヌぶりをひたすら絶賛するブログ!! - ナギ ナリコのENTREVUE BLOG

先に感想をアップしましたが、素晴らしく巧みです。リナちゃんが出てくると観客もわたしも彼女に目がいっちゃう、客席の視線独り占め感、あるある。リナというのは、要はあの時代の象徴的な「ブロンドカールヘアの少し頭が弱いセクシー美女」をカリカチュアしたキャラクターなんですよね。その役回りをよく理解されて演じているように思えましたし、娘役ぶりもとってもキュートで!ともすればあざとかったり、鼻につく悪役だったり、ただの三枚目になってしまうキャラクターを振り切って最高にチャーミングに演じていました。すこいぞ、まゆぽん、うまいよ、まゆぽん。

月組の地力の高さ

蓮つかさくんと叶羽時さん、映画監督とリナの友人ゼルダ役ですが、それぞれとても上手くて光ってました。他のキャストもそれぞれ充実の座組みだったと思います。月組は組全体や個人のパワーバランスがよく、分割しても見応えある作品作りが出来るのは強みですね。集団でのダンスシーンが二階席遠目から見てもとても綺麗にそろっていたのも印象的でした。

今回休演者が多く大変だったと思いますが、それをほぼ感じさせない出来栄え。

現在最もトップコンビ、二番手のバランスが良く、作品運にも恵まれ、勢いのある組である月組トップ娘役愛希れいか退団後の新トップ娘役の発表はおそらくもう間も無くです。けれど、人員が入れ替わってもきっと質の高いパフォーマンスを見せてくれるだろうとポジティブな予感をさせてくれる、充実の公演でした。楽しかった!

 

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