ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

名作児童文学を「どう」ミュージカル化するか?@新国立劇場『ミュージカル 魔女の宅急便』

新国立劇場にて、名作児童文学魔女の宅急便を原作としたミュージカルを観てきました。同じ小説を原作にした宮崎駿によるアニメ映画は国民的なヒット作。

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さて、同じ原作を元にしながら、如何に「新作」ミュージカルとして作られたのか?以下にレビューしたいと思います。

ちなみ物議を醸しだした別の実写映画版はだいぶ前に公開されています。

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13歳になった魔女のキキは、古くから伝わる習わしにのっとり、相棒の黒猫・ジジと共に満月の夜に旅立つ。自分で新しい町を見つけ、一年後には自力で暮らせるようにならなければいけないが、空を飛ぶ魔法しか知らないキキは、大きな町での価値観の違いに驚き、また魔女であることに対する後期の目や偏見に苦しむ。自分と言う小さな存在に葛藤しながらも、飛ぶことに憧れる少年トンボとの交流や、パン屋のおソノさんに励まされながら、思春期の少女は少しずつ成長していく。

おソノさんの提案で飛べることを生かしお届け物屋さんを始めたキキだが、なかなかうまく町に馴染むことができない。何かとちょっかいを出してくるトンボへの淡い恋心も、まだまだ子供のキキにはその気持ちを整理することができない。そんな中、町長からある依頼が来る。それは待ちの一年で一番大きな行事に関わる重要な仕事。キキは無事その依頼を果たせるのか。そしてトンボとの淡い恋の行方はどうなっていくのか?!

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www.musical-majotaku.jp

全体について

幕開け、魔女の住む町の情景から始まり、キキが生まれるシーンへと繋がります。13歳になったキキは数日後の満月の夜に旅立つことを決意、港町コリコにたどり着き、そこでの生活を始める。途中映画でもおなじみ、おソノとの出会い、誕生日のお届けものを飛行中に落とすシーン、ウルスラとの出会い、トンボに誘われたダンスパーティー、クライマックスのトンボを助けるシーン等、宮崎アニメ版と多少設定や描写が異なる場面も多いのですが、総じて「魔女キキの成長ストーリー」と言った点は同じ。

わたしは原作小説を読んでおりませんので、実際の原作と舞台や映画版の設定の比較等は出来ませんが、大まかな流れ的なものはそこまで相違なかったように思います。

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「あの」宮崎アニメと同じ原作を扱う難しさ

観劇してまず第一に感じたことはこれでした。宮崎駿の『魔女の宅急便』は国民的なヒット作で評価も高く、老若男女ほとんどの世代が知っていて、繰り返し観ている作品。過去の実写映画化も、その第一報に宮崎アニメのそれかとネットがざわついたことも覚えてます。(これはフジは関係ないのかな?)そして、その評価は芳しいものではなかった。今回もそのタイトルだけで話題作でしょうし、フジテレビの肝いりで再演となったのでしょうけど、どうしても「あの」宮崎駿スタジオジブリが作った映画と比べてしまうわけです。

つまり、舞台はジブリ映画とは異なるベクトルで、しかも「舞台ならでは」の魅力を放つものにしなくてはならない。この難しさたるや…というところ。

結果、今回再演、ということですけれど、正直成功していたとはあまり言えないように思いました…

 

『ミュージカル魔女の宅急便』の「詰めの甘さ」

まずこの作品、児童文学のミュージカル化として、作りが洗練されていない。

例えば:

・キャラクター達が、脚本上魅力的に描けていない

・印象的な演出、舞台効果(=舞台としての見せ場)があまりない

・ミュージカル化が拙い(ダンスシーン、転換、オリジナルの曲、歌詞)

以上の点です。

魔女の宅急便」にはとても個性豊かなキャラクターが多数登場します。キキ、ジジ、トンボ、おソノさんと夫のフクオ、キキの両親、ウルスラ…今回の舞台はコリコの町長が役として大きく、リトルキキ、リトルジジという幼少時代を別の子役にあてたのが印象的でした。そもそもジジ、等身大でしたね(かわいい)

しかし、どうも「舞台で描かれているキャラクター」だけ見ると、魅力的に写らない。

ジブリアニメ版はどのキャラも「立って」いて、どういう人物だか皆さんすぐ説明できると思います。ただ、この舞台は脚本のエピソードが薄く、それを補う演出にもなっていないように感じました。黒猫ジジなんて二幕ほぼ出てこないし。

また、‘そもそも「宮崎アニメ」をみんなが観ている’のを前提とした作りになっているのも疑問でした。

例えばジジがぬいぐるみとして預けられるシーンの行く末、キキが魔法が使えなくなるシーンの意味、キキがラストデッキブラシで飛ぶシーン、これらのシーンは宮崎アニメ版ではどれも非常に印象的なシーンです。

今回はあまり印象的なシーンになっておらず、一部省略しており実は「どうしてこうなっているのか」、観客が自分の中で想像力を発揮しにくい構造になっています。原作が良く知られていても、舞台上でキャラやストーリーを追えないと観客としてはついていけないな、というか。

キキはトンボをどう思っているの?キキが箒で飛べなくなったのは、「体調を崩したから」?でも体調悪いのになんでラスト飛べたの?となる。(一応一通り全説明的に語られ、歌われてはいます)クライマックス、トンボが飛ぶ姿を見て…という、キキの心情の変化を物語る大事なシーンが、演出上あまりインパクトがなく、やや流れてしまっていたのも苦しい。

今回割と大きな町長役は、(原作に本来いるキャラかな?)ヒールなのか三枚目なのか、ヴィジュアルからもキャラがわからない。本来おかしみを感じそうなシーンに、それが感じられない。なんなら町長の下りが場面としても長過ぎて、観客が冷めている。町の人にしてもウルスラにしても、キャラがあまり生きていない。

 

演出上、印象的な部分がキキのフライング程度しかないのも残念でした。背景に映像を使い、実際に飛んでいるように見せるのは良い。ただ、その映像のクオリティが低すぎる。(PSのそれ?みたいな遠近感おかしい背景)今の観客はプロジェクションマッピングや海外の有名ミュージカルの斬新な演出も知っていて、目が肥えてきています。クライマックスも映像に「台に乗った」トンボ、空飛ぶキキ、という絵図らからして演劇的に魅力的なシーンに仕上がっていない。トンボのフライングは難しかったのでしょうが、もう少し何かあっても…と思いました。

 

ミュージカル作品としても、ミュージカルの歌は、心情を歌ったり、状況をうたったり色々ですけれど、総じて「歌が台詞」なんですよね。それがこの舞台、何やら説明的な歌詞、台詞が多く、「何を」伝えたいのか、観客にわかり辛い。音楽として印象的なものがキキの「なんだろう~この~気持ち~」とトンボの「見渡せば〜」のナンバー程度しかない。あと色んなアンサンブルに延々と説明的な歌を歌わせ過ぎ。もっとショートカットしていいし、主役ふたりはまだまだ若いのだから、もっと上手に減らせばいい、なんならもっと音楽劇的に作っても良かったのでは?

ダンスシーンも、パーティーの場面は後半の見せ場なのだから、もっと派手なナンバーにしてもいいでしょうに、イマイチ盛り上がりにかける。トンボ役大西流星さんは踊れるのでしょうから、もっともっと踊らせればいい。トレードマークの丸眼鏡にだって、もっと演技やナンバーでアピールしてみせたっていいはずです。

作品のメッセージとしては、「誰もがひとつ魔法を持っている」なのでしょうが、それは語らせるのではなく、悟らせなければならない。ちょっと冷たく利己的な町民や町長に「われに魔法が」と歌われても、子ども使い倒してるくせに…と思いますよ(すみません)

全体的に再演なのに洗練されていないな、と感じました。

 以上のように「ミュージカル」として、一本の舞台作品として観たときの製作陣の「詰めの甘さ」が随所に感じられてしまう内容となりました。

 

演者について

キキ役の福本莉子さん、東宝シンデレラグランプリということで、愛らしいルックスに声、歌は少し不安定で拙い部分もありますけれど、チャーミングでした。ポジティブな場面より、後半キキが傷ついて…からの場面の方が印象的でしたね。彼女の持ち味のけなげさが生きるのかな。

福本 莉子|女性俳優|東宝芸能オフィシャルサイト

トンボ役、大西流星さん(関西ジャニーズJr.)、歌や舞台での佇まい、安定してました。もう少し芝居や役作りに緩急が出るともっと魅力的かな。ふたりのハモリはちょっと辛かったかな〜…コキリ(キキのお母さん)、オキノ(キキのお父さん)は幕開け以外そこまで印象的な場面がないですが、キチンとされていたと思います。横山だいすけさん(だいすけおにいさん)は本当に歌がお上手ですね~!語りかける場面の囁くような、でもきちんと聞こえる美声。フクオ(ライセンス、藤原一裕)は台詞のないキャラですけれど、お芝居心を感じましたし、白羽ゆりさんの明るく快活でありながら、母性に溢れたおソノは印象的でした。あと、ジジ(岡田奈々、小林百合香、後藤いくり)、リトルキキ(寺田光、林歩美)とリトルジジ(小川泉、小金花奈)ちゃんたちは皆さんお芝居もお歌もとても上手でした(なんなら主役の二人より…)あとちょっとした役なのですがミララン(キキの友人)がものすごく歌が上手い子で、これは衝撃でした。(池田紋衣、万座みゆ)子役の子達はみんな凄く上手かったなあ。

 

以上、フジが力を入れて作った作品なのでしょうが、なかなか個人的には厳しい内容だったな…と思います。大好評舞台の待望の再演!にしては…というのが正直なところ。空席もかなりありましたし、チケットを捌いているであろう若いジャニーズファンの女の子達、リピーターを楽しませる出来になっていないのも、どうも舞台全体と客席の雰囲気が「サムイ」原因だと思います。(途中で帰ってしまった子もいた)

わたしとしても、この前この劇場で観たのが「アニー」ですからね…

www.nagi-narico.com

往年の名作に較べると、脚本、演出、役者のレベル、すべて少しレベルが落ちるように思えてしまい…日本で一からオリジナルミュージカルが作られること自体、非常に素晴らしいことなんですから、もっと頑張って欲しいなあ。

ミュージカル人気が上がってきている「今」だから、尚更です。

日本発のオリジナルミュージカルは今後もしばらく宝塚と四季の二強ですかね…最近は2.5も界隈も見過ごせないけれど…

長く色々書きましたが、今回はこういう舞台観ました、ということで。

ナギナリコがお届けしました。

 

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