名作ミステリー小説がトラウマ級のホラー映画に…!@野村芳太郎監督 松竹版『八つ墓村』(1977年)
こんにちは。本日はまだ納涼には早過ぎますが、この間見て怖すぎてあやうくトラウマ映画になりかけた(ブルブル)『八つ墓村』をご紹介します。映画のレビューも久しぶり!
こちらの映画、日本航空とのタイアップよろしく、空港のシーンから始まり…というJAL押し映画としてスタート。さて航空機誘導員の主人公寺田辰弥(萩原健一)が新聞広告をきっかけに大阪の弁護士事務所を訪れます。そしてそこで腹違いの兄久弥(山崎努)が当主を務める、岡山の多治見家のことを聞かされる。辰弥は背中に大きな刀傷(火傷?)があり、それが辰弥が多治見の者であり、ある事件の被害者だと示すものでした。そうしてそこで祖父丑松に再会…が、丑松は辰弥の目の前で謎の死を遂げます。後日、迎えに来た親戚の美也子(小川眞由美)に連れられ、辰弥は白眉線に乗って岡山の多治見の家を訪れます。着いて早々、道行く老婆に罵られる辰弥。次第に多治見の家のある場所は昔「八つ墓村」と呼ばれていたこと、過去に数々の恐るべき陰惨な事件があったことを知ります。そして村でまた、新たな殺人事件が起こり━━━というのが序盤。
以下、犯人こそネタバレしていませんが、「ホラー映画の絵面」的なことや、演出については触れてますので、ご注意下さい。ちなみに何も知らないでwikiやネタバレ、解説サイトを読むだけでも気分悪くなる方もいるかもしれませんので、以下も同様にご注意下さい…(コワイ映画です、本当)
この『八つ墓村』の名、迷?シーンと言えるのが、数々の「長い」「残忍な」「殺戮」シーンです。
深夜に一人で見るとトラウマ映画になり、子どもの頃に見せられたら夜中に一人で眠れなくなりそう。
最初の祖父の死から始まり、ハイライトは尼子義孝(夏八木勲)とその家来7人を村人らが報奨金目当てで虐殺するシーン、その殺戮に関わった村人、更にその祖先が次々に酷い死に方をしていくさま。
やたらリアルで時に特撮じみていて、とにかく長い。
更に恐ろしいのは、辰弥の実の父親とされる前頭主、要蔵(山崎努、二役)が起こした事件。これは日本の犯罪史上に残る有名な「津山事件」(苦手な方はググらないの推奨)を元にしています。
原作でお馴染み、金田一耕助(渥美清)が割と序盤から出て来て、事件解決に動くかと思えば、最後の最後の恐ろし過ぎる辰弥と犯人の延々続く逃走劇。そしてラストは…ということで、金田一が出てくるものの、「探偵」というより、ただのまとめ役等に過ぎず、ラストの辰弥と犯人の逃走劇もまるで知らずに村の皆さんと会合中、という拍子抜け…
渥美清さんは「寅さん」の名演で知られますが、随分とぼけた金田一耕助でした。市村崑監督、石坂浩二主演の金田一とはまるで金田一のキャラクター像も、横溝正史原作のそれとも違う。
ただ、この映画がある意味ショッキングな迷作?として現在も語り継がれているのは、その数々の「振り切った」「残忍過ぎる」シーンのおかげ、とも言えます。
東宝版市村崑監督『犬神家の人々』の翌年に偶然にも松竹で封切られたのが、なんともタイムリー。実は、企画段階ではこちらの方が前で、クライマックスの某所の撮影のせいで製作期間に2年3ヶ月も費やしたというのだから驚き…!!
見て頂くとわかりますが、クライマックスはそれはもう、渾身の、力の入った、「絵面」なわけです。インパクト抜群。
むしろインパクトがあり過ぎて、トラウマになるかもしれない勢いです。
え、そこまでリアルに、時に非現実に、執拗にやるの?!という位表現として徹底している。
刀で斬られ、首も飛び、血も流れ、吐いて泡も吹く、という。
そして一部の人物の特殊メイクとも言うべき「頑張り」、顔の造形が冴えてました。双子の老婆小竹、小梅(山口仁奈子、市原悦子)にしろ、要蔵にしろ、犯人にしろ、凄まじい迫力です。
「ミステリー」作品として本作を見ると、荒も多いです。前述の通り探偵役の金田一が仕事していない。
けれど「ホラー」映画として見た時、今では絶対に出来ない表現の数々に、平伏してしまう。
野村芳太郎監督の作品に対する凄まじい執念、そしてその要請に応えた役者やスタッフに拍手を送りたい一作。
作り手が込めたエネルギーは、観客に伝わる。
万人には、いやむしろ多くの方にはすすめません。怖いしグロいし。でも、その数々の「表現の」凄まじさに、触れてみたら人生観変わる人もいるかもしれない、そんなことを感じました。
あ、くれぐれも、1人で観るのは要注意ですよ。
ナギナリコでした。
今日この頃の趣味の話+宙組雑感
こんにちは、ご訪問頂きありがとうございます、ナギナリコです。
今日、というか最近はちょっと長めの記事をまとめて書く時間があまりないので、それとなーく最近の活動のご報告と今後の予定でも。
最近観劇したり、観に行った展覧会等の記事。
どれも色んな点で面白く、今までのじぶんの引き出しにはない楽しみを見つけた感じでよかったです~~
ちなみに宝塚は宙組を観劇して来ました!
宙組公演 『天(そら)は赤い河のほとり』『シトラスの風-Sunrise-』 | 宝塚歌劇公式ホームページ
新生宙組さんお披露目天河/シトラス@阪急貸切いって来ました!や〜真風涼帆率いる宙組のヴィジュアル力の高さたるや…!天河は読み直す時間なく、わかるかな…と思っていたんですが、説明台詞やキャラ名入ってるといけました!小柳先生はオタク属性だけど舞台づくりは手堅い職人さんな感じですね。
— ナギ ナリコ@5月は反省と行動。 (@sorekime) 2018年5月19日
宙組貸切、抽選のお手伝いは亜音有星くんであだ名がチョロ吉?キョロ助(あいまいすみません)で微笑ましく、中詰最後列一番上手寄りもチェック出来ました!終演後はトラピだからキキちゃん(芹香斗亜)も真風さんとご挨拶してくれて嬉しかった!司会はもちろん達つかささん(すっしーさん妹さん)でした〜!
— ナギ ナリコ@5月は反省と行動。 (@sorekime) 2018年5月19日
宙組シトラスの風。何というかうん、シトラスだね、新場面含め映像で再演で見てた昔の宝塚み〜って感じで、明日へのエナジーはともかく、綺麗だけどなんだか普通だった…衣装・ダンス・曲・演出ほぼ全て岡田敬二先生の既存・既視感あるあるで少しでもスタイリッシュさや現代的要素入れて欲しかったな…
— ナギ ナリコ@5月は反省と行動。 (@sorekime) 2018年5月19日
宙組シトラスの風は「全体」「大人数」なショーなんですね。今日二階席でして、最近の派手で見栄えする転換、スター次々、みたいなのがなく、「全体」と「スター」ピックアップのショーだな、と。上から見てたらそう思った。
— ナギ ナリコ@5月は反省と行動。 (@sorekime) 2018年5月19日
とりあえず雑感をつぶやく。
まだ観劇予定していますので、また改めて公演評などはアップします~~
宝塚関連は:
星組公演 宝塚大劇場『ANOTHER WORLD/Killer Rouge』を遠征予定。
他にストプレ観劇の予定もあります。
映画は観たいのがあるんですけど、どうも、都合つけていけなさそうなんだよな…
『君の名前で僕を呼んで』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』気になってます。
ちなみに映画は最近1977年松竹版の『八つ墓村』を観て、怖くて怖くて若干トラウマになりかけました笑 ミステリーじゃなくホラー映画ですね、これは。
『金田一少年の事件簿』が好きなんですが、「飛騨からくり屋敷殺人事件」はこれをモデルにしてるんですね~。ってか本家横溝作品からかりてきたネタ結構多いんだ!
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わたしの親戚筋がまさにこのモデルになった地域近くにおりまして、馴染みある地名にもおおっ!となりました。尼子とかも懐かしいなあ、昔大河で『毛利元就』ありましたよね。
気が向いたらこちらもレビューしたいと思います。
まんがや本もちょいちょい読んでいるんですが、あんまりご紹介できるほどではないかな。最近ずっと読んでたジャンプ+の『ラブデスター』がとても良いエンディングを迎えて良かったなあ、と。一時は打ち切りされないか心配でしたけど…本当とてもよかった!
cakesやnote、他、読者登録させて頂いているブログも読みたい記事沢山あるんですが、イマイチ読み切れてないですね、ちょっと心身ともに忙しい感じです。
おうちや移動中はvoicyを聞いたりもしています。かほこママ(経沢香保子さん、声が綺麗・的確・癒される)とサウザーさん(経済系の話+ちょいちょい入る歴史エピも気になる)を割ときいてます。
目標だった100本記事をかけて、今後もずっと定期的にブログは運営していきたいと思います。アクセス数も伸びたら嬉しいけど、そんなバズを狙う…みたいなのはいいかな。コラムや文章の書き方も、色々勉強してみて試行錯誤していきたいです。んーでも当分腰を据えて、は無理かな~?ちょっとペースダウンしていくかもしれません。
noteは本当たまーに書いてます。こっちでは書けない(書きにくい)ことなどをこっそり。
まあ今後も、色々なスタンスが劇的に変わることは基本ないと思いますので、出来れば末永くナギナリコと『エンタメ ジャーニー』を宜しくお願い致します。とにかく長いブログばかりですので、たまにチラ見でもして頂ければ。
では今日はこのあたりで。
批評性に富んだ金融資本主義の寓話@『修道士は沈黙する』
いつも独自のラインナップが楽しみな渋谷文化村ル・シネマで、面白いイタリア映画が公開中です。G8財務相会談の際起きたある事件とその真相を巡るミステリー仕立てのスト―リー、招待された場違いなイタリア人修道士の存在をキーとしてストーリーが展開します。
ドイツ、ハイリゲンダムの空港に、イタリア人修道士、ロベルト・サルスが降り立つ。彼は迎えの車に乗り、ある国際的な会合が開かれる場に向かう 。バルト海に面したリゾート地の高級ホテルで開かれる予定のG8の財務相会議。そこでは世界市場に多大な影響を与える再編成の決定がくだされようとしている。それは貧富の差を残酷なまでに拡大し、特に発展途上国の経済に大きな打撃を与えかねないものだ。
会議の前夜、天才的なエコノミストとして知られる国際通貨基金(IMF)のダニエル・ロシェ専務理事は、8カ国の財務大臣と、ロックスター、絵本作家、修道士の異色な3人のゲストを招待して自身の誕生日を祝う夕食会を催す。会食後、サルスはロシェから告解がしたいと告げられる。翌朝、ビニール袋をかぶったロシェの死体が発見される。
自殺か、他殺か? 殺人の容疑者として真っ先に浮上したサルスは、戒律に従って沈黙を続ける。間近に迫るマスコミ向けの記者会見。ロシェの告解の内容をめぐり、権力者たちのパワーゲームに巻き込まれたサルスは自らの思いを語り始める。果たして謎の死の真相は? そしてロシェがサルスに託したものとは 。
監督・脚本・原案・:ロベルト・アルバーニ
脚本・原案:アンジェロ・パスクイーニ
撮影監督:マウリツィオ・カルヴェージ
イタリア映画、というのはあまり馴染みがないのですが、例えば巨匠ヒッチコックなんてもちろんわたしでも聞いたことがあり、何本か、だいぶ昔に見た覚えがあります。この作品もそのような作品からの影響をなんとなく感じました。
全体として、まず絵面が面白い!オープニングのユーモラスな場面から、段々とシリアスに、G8財務相会議という今日的な金融資本主義の催しが行われる。各国の要人は皆個性的であり、他に数名のゲストが招かれます。その中に、中世世界から飛び出してきたような白いケープと少しの日用品を持った修道士、ロベルト・サルス(トニ・セルヴィッロ)。
ここからネタバレ全開でいきます。
財務相会議1日目が終わり、一夜明けると超有名バンカー、ダニエル・ロシェ(ダニエル・オートゥイユ)が自室で死んでいるのが見つかる。彼は前日修道士(モンク)を自室に招いて告解をしており、彼と最後にあったであろう修道士サルスが疑われます。その死の真相を巡る謎解きのミステリー部分と、各国財務相、要人達との人間関係、他のゲストのアーティストやミュージシャンも加わった、腹の探り合い、パワーゲームみたいな密室会話劇的なところが見どころ。
修道士役のトニ・セルヴィッロは終始無表情というか、思慮深い、一歩引いた立場を崩さない。取り乱すこともほぼない。ただそんな世捨て人的な雰囲気を纏う彼が心乱される場面、というのがいくつかり、それがこのミステリーの真相に近づく出来ごとであったり、女流作家との交流であったり、ラストの素晴らしい説教であったりするわけです。その表出って出ない、巧みさ。日本人キャストならこういう役、誰が出来るかな〜と思ったんですが、ちょっと違うかもだけど小日向文世さん、できそう。そしてこれは絶対ハマる!と思ったんですが、主に舞台でご活躍中の木場勝己さん!木場さんとは面差しもなんだか似ていますね。
次に大きい、かつ重要な役が女流作家のクレール・セス(コニー・ニールセン)。非常にスマートかつ人間味もあり、魅力的なキャラクター。セクシーな印象もあるんですが、どこか抑圧的な何かを抱えていて、それに苦しめられている。その彼女を苦しめているものを受け止めてくれるのが、修道士のサルス。この二人の場面が、とても良いですね。
女性キャラクターはもう一人いて、カナダの大臣(マリ=ジョゼ・クローズ)。彼女はセスとは対照的で、頭も切れますが、性にも奔放。似たようなポジションが男性アーティスト。
各国の要人達はそれぞれ何かしら修道士と一対一で対する場面があり、持ち味の違い、お国(出身国)からくる人間性みたいなものを感じさせるやりとりも面白い。
加えて小道具の使い方が巧み。
修道士の僧衣、煙草、レコーダー、椅子、数式、紙とタッチパネル、女性作家の児童向け小説、鳥と忠実なる相棒、犬。
ほぼモブだけれど重要なエッセンスが、冒頭のアラブの民族衣装を纏った女性達、二人の女児、裸でデモに来た3人、召使いや職員?達。
音楽もいい。ラストは耳馴染みのある「あの曲」です。良かった。
そのすべてがスマートかつ知的で、用意周到に配されている。
特にユーモラスな場面は冒頭と、クライマックス。
人間に忠実な犬は、誰がその場で一番「偉いか、権力を持っているか」見抜く。洒落たラストですね。
主人公は修道士ですので、聖書にまつわる例え話も出てきますが、その節がまた示唆に富んでおり、皮肉や批評性も含んでいて、とても効果的。
代表的なものに宣材でも使われている、
「天国の天使が 自らの務めを怠るとき 主は天使を 永遠の 暗い部屋に閉じ込める」
他にもクライマックスのサルスの説教ですね。詳しく書き取らなかったのですが、現代社会へのシニカルで痛烈な批判。サルスが感情的になる場面は少ないですが、現代のわれわれの心に訴えかける「至言」ともいうべき数々のことばが語られます。
以上のように書くと、色々ドラマティックな感じも受けるかと思いますが、クライマックス以外、ほとんど「地味な映画」です。画面も終始暗いので疲れているときにいっちゃうと、船こいじゃうかも。ですが、ひとつひとつの場面が含蓄に富んでいて、一度見ると、「あれって、つまりはこういうこと?」ともう一度みてみたくなる。
それだけ、観客をひきつける力を持った作品であり、同時にとても「抜け感」がある映画です。そこがセンスがいい。
ひとによって解釈が異なる部分もありそうですが、クライマックス、記者発表で語られた結果が、わたしはとても希望にあふれたもの、として受け取りました。
われわれは日本と言う「先進国」で生きており、主に欧米列強から輸入した「資本主義社会」にどっぷりつかっている。しかし、現代世界を見渡してみればわかるように、「資本主義のジレンマ」という問題が今世界各地で起こっている。世界的に格差が広がっている。でも資本主義に対抗するものとして生まれた社会主義を選択した旧社会主義国家の数々には未だ貧しい国もある訳です。一方で、資本主義社会にも限界がくるのではないか───?という空気も確かにいまの時代あるんです。サステナブルな社会を作るために、どう生きるか、その明確な解みたいなものはこの作品では描かれていませんけれど、現代のわれわれにとっては、心と頭のライブラリーにしまっておきたい名作でした。
東京では文化村ル・シネマで~4/27(金)まで。全国でも公開中です。
是非ご覧ください。
名匠スティーヴン・スピルバーグによる硬質で濃密な社会派作品@『ペンタゴン・ペーパーズ』
こんにちは、ナギナリコです。
映画は定期的に観に行きますが、たまに全然ノーマークの映画を観に行く機会があります。この作品はそんな時、出会った作品。ではご紹介します。
国家の最高機密文書<ペンタゴン・ペーパーズ>。
なぜ、アメリカ政府は、4代にわたる歴代大統領は、30年もの間、
それをひた隠しにしなければならなかったのか―。
1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国内には反戦の気運が高まっていた。国防総省はベトナム戦争について客観的に調査・分析する文書を作成していたが、戦争の長期化により、それは7000枚に及ぶ膨大な量に膨れあがっていた。
ある日、その文書が流出し、ニューヨーク・タイムズが内容の一部をスクープした。
ライバル紙のニューヨーク・タイムズに先を越され、ワシントン・ポストのトップでアメリカ主要新聞社史上初の女性発行人キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)と編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は、残りの文書を独自に入手し、全貌を公表しようと奔走する。真実を伝えたいという気持ちが彼らを駆り立てていた。
しかし、ニクソン大統領があらゆる手段で記事を差し止めようとするのは明らかだった。政府を敵に回してまで、本当に記事にするのか…報道の自由、信念を懸けた“決断”の時は近づいていた。
映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』公式サイト 大ヒット上映中
ベトナム戦争中の兵士たちのシーンからはじまります。
政府系の職員(このポジション曖昧です、すみません)がベトナム戦争の兵士達に追従し、ベトコン、南ベトナム解放戦線との激しい戦闘を目の当たりにします。
彼はタイプライターを使い文書を作成、また、本国に戻った後機密文書を持ち出しひそかにコピーをしそれをある人物に手渡します…
ここからネタバレしますのでご注意下さい。
これは前半の部分ですが、なんといっても盛り上がるのは後半一時間!
とにかく、絵的に派手な出来事は起こらないのですが、ひたすら畳みかけるように、新聞社内、間、顧問弁護士とのやりとり等、政治的駆け引きが続きます。メリル・ストリープはワシントン・ポストの社主・発行人、キャサリン・グラハム役。元々夫が継ぐはずだったのに、夫の早逝により、一介の主婦がワシントンポストにポジションを得ます。初めの方でケイ(キャサリンの愛称)が会議でろくに発言も出来ずにいるシーンがさしこまれる。とにかく、「普通の」「一般的な」女性です。トム・ハンクスはワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリー役。他にワシントン・ポストの編集局長等、数人によってこのペンタゴン・ペーパーズを記事にするのか、どうなのか、その駆け引きがずっと続く。場面設定も限られていて、新聞者、ベンの自宅、ケイの自宅、パーティー会場等ですが、ほとんど絵図らが動きません。ケイは一刻を争う緊迫感の中、ついにある決断を下します。目に力が入って潤んだ瞳をして。そして駆け引きが続きながら、ラストまで一気に向かう。1970年代なのでパソコンなんてありません。タイプライター、判を使って印刷するの機械(なんて名前でしたでしょうか)輪転機等、かなり大がかりな作業になる。その重々しい機械の存在感が終始暗いトーンの画面に更に重厚感を与えています。時にレモネードのくだりなど、そこはアメリカ映画なのでユーモアは忘れない。けれど、そういう面はかなり抑えて、最後まで役者の演技と、台詞、テンポ感で見せていく。スピルバーグというと、わたしはやっぱりE.Tやジョーズのイメージなんですが、こんな硬質な社会派の作品も撮るのですね。非常にしっかりした作りの作品だな、と思いました。
公文書改竄にまつわるメディアと政府間の諍い…あれ、どこかで聞いたことあるような。戦争で犠牲になるのはトップではなく、三角形の一番下の、若い、働き盛りの(特に男性の)兵士達ですよね。男性を奪われた家族や女たちも被害者です。
「(戦争を終わらせないのは)戦争に負けたと国民に知られたくないからだ(意訳)」みたいな政府高官(だったかな?)の台詞があり、「まあ、そうですよね…あなたたちは安全なところで国民を駒として扱ってるんですね…いつの時代もそうですよね…」と思いました。
非常に今日的な話題でもありますし、いま日本に住むわれわれは観たほうがいい映画だと思いました。
ラストが結構あれ?あれ何?どういうこと?って声がちらほら聞こえたんですが、
ですね。日本人だと、世界史で習う程度なんですが、ここはアメリカの歴史上重大な事件なんでしょうね。
メリル・ストリープもトム・ハンクスもこれまで数々の名演を見せた名俳優ですが、今回の役も良かった!ケイ(キャサリン)は「ふつう」の「一介の元主婦」「男社会の中の女性」というところがポイントで、メリル・ストリープ自身は結構強い女性のイメージもあると思うんですが、先述の通り繊細な演技も見せてくれました。トム・ハンクスは芝居の間がすごくいいですね。
というわけで、偶然の出会いでの鑑賞でしたがとても良かったです!
全体的に硬質な印象なので、エンタメより落ち着いて映画が楽しみたい方におすすめ。社会派作品なので映画通好みの作品だと思います。
解説『ペンタゴン・ペーパーズ』。1971年のジャーナリズムが映し出した現在地【小野寺系】 | ciatr[シアター]
小気味良い会話とマッケンナ・グレイスの名演が輝る@『gifted ギフテッド』
今日は少し前に鑑賞しました『giftedギフテッド』をご紹介します。数学の天才(ギフテッド)のメアリーと、その叔父フランクとのユーモラスなやり取りも楽しい、素敵な映画でした。
クリス・エヴァンス出演 映画『gifted/ギフテッド』予告
フロリダの海辺の街で、ボートの修理をして生計を立てている独り身のフランク。彼は、天才数学者だったが志半ばで自殺してしまった姉の一人娘、メアリーを養っている。彼女は、先天的な数学の天才児“ギフテッド”であり、周りは特別な教育を受けることを勧めるが、フランクは「メアリーを普通に育てる」という姉との約束を守っていた。しかし、天才児にはそれ相応の教育を望むフランクの母イブリンが現れ、フランクとメアリーの仲を裂く親権問題にまで発展していく——。
映画『ギフテッド』オフィシャルサイト| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
まず、はじめフランク(クリス・エヴァンズ)とメアリー、二人の朝からストーリーがはじまります。この時点で、観客はこの二人がどういう関係かは、あらすじを読んでいなければ知りません。けれど、この二人のくだけたテンポのいい、ユーモアたっぷりなやり取りで、彼らが親子ではないのがわかる。そして、仲が悪くない関係なのもわかります。「スペシャルな朝ごはんだ」って起こして「ケロッグコーンスペシャル(コーンフレーク)」が出てくるくだりなんて楽しいですね!
公立の小学校に入学したギフテッド(数学の天才)、メアリーは、早くもクラスに馴染めず、学校を飛び出す、迎えに来たフランクに、教師が追いかけてくると「1+1を教えに来たのよ」なんて辛口も飛ばす。
この映画、終始こんな感じでメアリーとフランクを中心にテンポの良いユーモラスな台詞の応酬で続きます。
昔、「I am Sam アイアムサム」という名作映画がありましたが、こっちは「叔父と姪」もの。年上の親族とまだ若い女の子、ってのがポイントかな。
話の中心は、数学の才能に恵まれたメアリーの元に祖母(フランクの母)がやって来て、親権争いに発展していってから。叔父であるフランクのちょっとしたロマンスや、メアリーの小学校での活躍も描かれます。
この映画には視聴者にさり気なく隠されていることがあります。
ひとつは、・メアリーの母の死の真相
もうひとつは、・叔父であるフランクの過去
このあたりの秘密が最後に感動的に解き明かされていく。
近い時期に公開され、邦題が物議を醸し出した『ドリーム』の様に、この映画でも主人公メアリーが数式に向き合う場面が出て来ます。
メアリー役マッケンナ・グレイスの数式と対した時の凜とした瞳が美しい。ふだんの、飼い猫といる時の愛くるしさや、ちょっと生意気そうなところも、とってもチャーミングです。
ドリームにも出演していたオクタヴィア・スペンサーが隣人の気のいい愛情深いおばちゃんを演じていて、フランクにつく弁護士も黒人系の人情派弁護士。祖母イブリン(リンゼイ・ダンカン)側の弁護士は白人系の怜悧なタイプ。メアリーの父親とともに対比構造がはっきりとしています。
ところで…アメリカではいわゆる黒人系の俳優の使い方は常に議論の的ですね。この映画も、白人系の主人公の側にいる素朴で愛情深い知的な人間、として描かれていますが、「ショーシャンクの空に」しかり、こういう型にハマったステレオタイプ、白人を助けてくれる妖精的な黒人系の俳優の使い方もいずれ、なくなっていくのでしょうか。うーん、やっぱり日本に住んでいる日本人のわたしにはまだまだ不勉強な感じでなんとも言えないですが…
あと、印象的なところとしては、やはり小道具の使い方が巧みでした。
言って見れば飼い猫も小道具だし、数式やGoogle検索云々、がキーアイテムになっている。普遍的なテーマを扱っていても、小道具はきちんと現代的なところを取り入れています。そこがいい。
こういう「天才ものの映画」って、定期的に名作が生まれますが、この映画もまた、そんな映画の一つかもしれません。「ドリーム」と「数学映画」つながりで一気に見るのも楽しいです。
名演を見せた小さな大女優・マッケンナ・グレイスに大きな拍手を。そして彼女の飼い猫にも!という感じで〆させて頂きます。ナギナリコでした!