ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

名作ミステリー小説がトラウマ級のホラー映画に…!@野村芳太郎監督 松竹版『八つ墓村』(1977年)

こんにちは。本日はまだ納涼には早過ぎますが、この間見て怖すぎてあやうくトラウマ映画になりかけた(ブルブル)八つ墓村をご紹介します。映画のレビューも久しぶり!

 

八つ墓村

八つ墓村 (角川文庫)

こちらの映画、日本航空とのタイアップよろしく、空港のシーンから始まり…というJAL押し映画としてスタート。さて航空機誘導員の主人公寺田辰弥(萩原健一)が新聞広告をきっかけに大阪の弁護士事務所を訪れます。そしてそこで腹違いの兄久弥(山崎努)が当主を務める、岡山の多治見家のことを聞かされる。辰弥は背中に大きな刀傷(火傷?)があり、それが辰弥が多治見の者であり、ある事件の被害者だと示すものでした。そうしてそこで祖父丑松に再会…が、丑松は辰弥の目の前で謎の死を遂げます。後日、迎えに来た親戚の美也子(小川眞由美)に連れられ、辰弥は白眉線に乗って岡山の多治見の家を訪れます。着いて早々、道行く老婆に罵られる辰弥。次第に多治見の家のある場所は昔「八つ墓村」と呼ばれていたこと、過去に数々の恐るべき陰惨な事件があったことを知ります。そして村でまた、新たな殺人事件が起こり━━━というのが序盤。

 

以下、犯人こそネタバレしていませんが、「ホラー映画の絵面」的なことや、演出については触れてますので、ご注意下さい。ちなみに何も知らないでwikiやネタバレ、解説サイトを読むだけでも気分悪くなる方もいるかもしれませんので、以下も同様にご注意下さい…(コワイ映画です、本当)

 

この『八つ墓村』の名、迷?シーンと言えるのが、数々の「長い」「残忍な」「殺戮」シーンです。

深夜に一人で見るとトラウマ映画になり、子どもの頃に見せられたら夜中に一人で眠れなくなりそう。

最初の祖父の死から始まり、ハイライトは尼子義孝(夏八木勲)とその家来7人を村人らが報奨金目当てで虐殺するシーン、その殺戮に関わった村人、更にその祖先が次々に酷い死に方をしていくさま。

やたらリアルで時に特撮じみていて、とにかく長い。

更に恐ろしいのは、辰弥の実の父親とされる前頭主、要蔵(山崎努、二役)が起こした事件。これは日本の犯罪史上に残る有名な「津山事件」(苦手な方はググらないの推奨)を元にしています。

原作でお馴染み、金田一耕助(渥美清)が割と序盤から出て来て、事件解決に動くかと思えば、最後の最後の恐ろし過ぎる辰弥と犯人の延々続く逃走劇。そしてラストは…ということで、金田一が出てくるものの、「探偵」というより、ただのまとめ役等に過ぎず、ラストの辰弥と犯人の逃走劇もまるで知らずに村の皆さんと会合中、という拍子抜け…

渥美清さんは「寅さん」の名演で知られますが、随分とぼけた金田一耕助でした。市村崑監督、石坂浩二主演の金田一とはまるで金田一のキャラクター像も、横溝正史原作のそれとも違う。

ただ、この映画がある意味ショッキングな迷作?として現在も語り継がれているのは、その数々の「振り切った」「残忍過ぎる」シーンのおかげ、とも言えます。

東宝版市村崑監督『犬神家の人々』の翌年に偶然にも松竹で封切られたのが、なんともタイムリー。実は、企画段階ではこちらの方が前で、クライマックスの某所の撮影のせいで製作期間に2年3ヶ月も費やしたというのだから驚き…!!

見て頂くとわかりますが、クライマックスはそれはもう、渾身の、力の入った、「絵面」なわけです。インパクト抜群。

むしろインパクトがあり過ぎて、トラウマになるかもしれない勢いです。

え、そこまでリアルに、時に非現実に、執拗にやるの?!という位表現として徹底している。

刀で斬られ、首も飛び、血も流れ、吐いて泡も吹く、という。

そして一部の人物の特殊メイクとも言うべき「頑張り」、顔の造形が冴えてました。双子の老婆小竹、小梅(山口仁奈子、市原悦子)にしろ、要蔵にしろ、犯人にしろ、凄まじい迫力です。

「ミステリー」作品として本作を見ると、荒も多いです。前述の通り探偵役の金田一が仕事していない。

けれど「ホラー」映画として見た時、今では絶対に出来ない表現の数々に、平伏してしまう。

野村芳太郎監督の作品に対する凄まじい執念、そしてその要請に応えた役者やスタッフに拍手を送りたい一作。

作り手が込めたエネルギーは、観客に伝わる。

万人には、いやむしろ多くの方にはすすめません。怖いしグロいし。でも、その数々の「表現の」凄まじさに、触れてみたら人生観変わる人もいるかもしれない、そんなことを感じました。

あ、くれぐれも、1人で観るのは要注意ですよ。

ナギナリコでした。