ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

「しっくりきた日常」。日本人のふつうの戦争体験@『この世界の片隅に』

先日、片渕須直監督のこの世界の片隅にを滑り込みで観てきました!

 

この世界の片隅に

これが公開された年は邦画が盛況で、『シンゴジラ』『君の名は。』『この世界の片隅に』3本が特に評判が良かったように思います。

しかしそのどれもわたしは公開当時観ずにすごしました、ナギナリコです、人生の損失です。

今、初めての鑑賞を終えて、思うのはすごく「しっくりきた」映画でした。

いわゆる日本の創作における「戦争もの」、といえば、名作漫画『はだしのゲン』映画『火垂るの墓』をはじめ、戦争の恐ろしさ、怖さ、やるせなさ、辛さにリアルに迫った作品が多いように思います。

この作品、この世界の片隅に』はとても「ふつう」なんです。

「ふつうの日常」の延長線上に、「あの」戦争がある。

見初められて呉に嫁に行き、夫は海軍で働き、小姑にいびられ、物資が足りなくて配給に通い、それでも足りなければ闇市に買い物に行き、見知らない女性に帰り道を教えてもらい、戦争が激しくなって空襲にあい、時には防空壕に隠れ、近しい身内を亡くし、自分もけがをする。そして終戦記念日玉音放送で戦争が終わったことを知る………

これ、ぜんぶあの当時「ふつう」だったことです。

それをのんさん演じる、どこか浮世離れしたファンタジックなすずさんという女性を通して描く。その繊細さ。本来ならおそろしいシーンをおそろしく描かず、哀しくてやるせないシーンをあからさまに激しい描写で描かない。

手書きの絵やイラストを演出に巧みに取り入れ、残酷さをあまり見せない。

一方で食事や性など、あの時代の日常性も描いている。

すずさんと周作さんのやりとりは、あの時代のことを考えると、やや誇張かな、と思えることもありました。でも、それでいい。

 

そしてクライマックス近くで、あの穏やかな、のほほんとしていたすずさんが声を張り上げるわけです。怒りをあらわにして、さけぶ。

その静かな、強い、かなしさ、怒り。

戦争とはそういうものなのだろう、と思います。

 

小学生の頃、祖父母に戦争での体験を聞きに行く授業がありました。

色々な映画や、本や、もちろん演劇も観ました。

でもこんなにも「ふつう」に、戦争を描いた創作ってあっただろうか。

わたしは少し前からずっと思っていた疑問に、日本人の思想の根底にあるものってなんだろう?創作の底に流れる思想ってなんだろう?というのがあります。

海外の芝居を観ていると、それが宗教や哲学だったりするわけです。でも日本人は宗教には疎い。彼らがキリスト教ユダヤ教イスラム教の教えを大切にしているようには仏教や神道儒教を大切にしてはいない。

けれど、宗教にはうといけれど、日本人の創作の根底には「戦争体験」「反戦思想」があると思っています。故作家、井上ひさしさんは色んな戯曲を発表されました。

この世界の片隅に』はこれまでのどの作品より、その問いに応えてくれた作品でした。

いつか、わたしがおばあちゃんになるころには戦争体験者は日本からいなくなっているはず。

そしてこの映画も「古典的名作アニメ映画」になるはずです。

その時に、孫か、子どもか、はたまた全然知らない外国の方にかもしれないけれど、戦争のことをつたえられるじぶんでありたい───そんな思いを「この世界の片隅に」は強くしてくれました。

 

とてもとても「しっくりきた」映画です。

 

 

 

 

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