ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

批評性に富んだ金融資本主義の寓話@『修道士は沈黙する』

いつも独自のラインナップが楽しみな渋谷文化村ル・シネマで、面白いイタリア映画が公開中です。G8財務相会談の際起きたある事件とその真相を巡るミステリー仕立てのスト―リー、招待された場違いなイタリア人修道士の存在をキーとしてストーリーが展開します。

 

ドイツ、ハイリゲンダムの空港に、イタリア人修道士、ロベルト・サルスが降り立つ。彼は迎えの車に乗り、ある国際的な会合が開かれる場に向かう 。バルト海に面したリゾート地の高級ホテルで開かれる予定のG8の財務相会議。そこでは世界市場に多大な影響を与える再編成の決定がくだされようとしている。それは貧富の差を残酷なまでに拡大し、特に発展途上国の経済に大きな打撃を与えかねないものだ。
会議の前夜、天才的なエコノミストとして知られる国際通貨基金IMF)のダニエル・ロシェ専務理事は、8カ国の財務大臣と、ロックスター、絵本作家、修道士の異色な3人のゲストを招待して自身の誕生日を祝う夕食会を催す。会食後、サルスはロシェから告解がしたいと告げられる。翌朝、ビニール袋をかぶったロシェの死体が発見される。
自殺か、他殺か? 殺人の容疑者として真っ先に浮上したサルスは、戒律に従って沈黙を続ける。間近に迫るマスコミ向けの記者会見。ロシェの告解の内容をめぐり、権力者たちのパワーゲームに巻き込まれたサルスは自らの思いを語り始める。果たして謎の死の真相は? そしてロシェがサルスに託したものとは 。


映画『修道士は沈黙する』予告編

 

映画「修道士は沈黙する」公式サイト

監督・脚本・原案・:ロベルト・アルバーニ

脚本・原案:アンジェロ・パスクイーニ

撮影監督:マウリツィオ・カルヴェージ

 

イタリア映画、というのはあまり馴染みがないのですが、例えば巨匠ヒッチコックなんてもちろんわたしでも聞いたことがあり、何本か、だいぶ昔に見た覚えがあります。この作品もそのような作品からの影響をなんとなく感じました。

全体として、まず絵面が面白い!オープニングのユーモラスな場面から、段々とシリアスに、G8財務相会議という今日的な金融資本主義の催しが行われる。各国の要人は皆個性的であり、他に数名のゲストが招かれます。その中に、中世世界から飛び出してきたような白いケープと少しの日用品を持った修道士、ロベルト・サルス(トニ・セルヴィッロ)。

 

ここからネタバレ全開でいきます。

 

財務相会議1日目が終わり、一夜明けると超有名バンカー、ダニエル・ロシェ(ダニエル・オートゥイユ)が自室で死んでいるのが見つかる。彼は前日修道士(モンク)を自室に招いて告解をしており、彼と最後にあったであろう修道士サルスが疑われます。その死の真相を巡る謎解きのミステリー部分と、各国財務相、要人達との人間関係、他のゲストのアーティストやミュージシャンも加わった、腹の探り合い、パワーゲームみたいな密室会話劇的なところが見どころ。

修道士役のトニ・セルヴィッロは終始無表情というか、思慮深い、一歩引いた立場を崩さない。取り乱すこともほぼない。ただそんな世捨て人的な雰囲気を纏う彼が心乱される場面、というのがいくつかり、それがこのミステリーの真相に近づく出来ごとであったり、女流作家との交流であったり、ラストの素晴らしい説教であったりするわけです。その表出って出ない、巧みさ。日本人キャストならこういう役、誰が出来るかな〜と思ったんですが、ちょっと違うかもだけど小日向文世さん、できそう。そしてこれは絶対ハマる!と思ったんですが、主に舞台でご活躍中の木場勝己さん!木場さんとは面差しもなんだか似ていますね。

 

次に大きい、かつ重要な役が女流作家のクレール・セス(コニー・ニールセン)。非常にスマートかつ人間味もあり、魅力的なキャラクター。セクシーな印象もあるんですが、どこか抑圧的な何かを抱えていて、それに苦しめられている。その彼女を苦しめているものを受け止めてくれるのが、修道士のサルス。この二人の場面が、とても良いですね。

女性キャラクターはもう一人いて、カナダの大臣(マリ=ジョゼ・クローズ)。彼女はセスとは対照的で、頭も切れますが、性にも奔放。似たようなポジションが男性アーティスト。

各国の要人達はそれぞれ何かしら修道士と一対一で対する場面があり、持ち味の違い、お国(出身国)からくる人間性みたいなものを感じさせるやりとりも面白い。

加えて小道具の使い方が巧み。

修道士の僧衣、煙草、レコーダー、椅子、数式、紙とタッチパネル、女性作家の児童向け小説、鳥と忠実なる相棒、犬。

ほぼモブだけれど重要なエッセンスが、冒頭のアラブの民族衣装を纏った女性達、二人の女児、裸でデモに来た3人、召使いや職員?達。

音楽もいい。ラストは耳馴染みのある「あの曲」です。良かった。

そのすべてがスマートかつ知的で、用意周到に配されている。

特にユーモラスな場面は冒頭と、クライマックス。

人間に忠実な犬は、誰がその場で一番「偉いか、権力を持っているか」見抜く。洒落たラストですね。

主人公は修道士ですので、聖書にまつわる例え話も出てきますが、その節がまた示唆に富んでおり、皮肉や批評性も含んでいて、とても効果的。

代表的なものに宣材でも使われている、

「天国の天使が 自らの務めを怠るとき 主は天使を 永遠の 暗い部屋に閉じ込める」

他にもクライマックスのサルスの説教ですね。詳しく書き取らなかったのですが、現代社会へのシニカルで痛烈な批判。サルスが感情的になる場面は少ないですが、現代のわれわれの心に訴えかける「至言」ともいうべき数々のことばが語られます。

以上のように書くと、色々ドラマティックな感じも受けるかと思いますが、クライマックス以外、ほとんど「地味な映画」です。画面も終始暗いので疲れているときにいっちゃうと、船こいじゃうかも。ですが、ひとつひとつの場面が含蓄に富んでいて、一度見ると、「あれって、つまりはこういうこと?」ともう一度みてみたくなる。

それだけ、観客をひきつける力を持った作品であり、同時にとても「抜け感」がある映画です。そこがセンスがいい。

ひとによって解釈が異なる部分もありそうですが、クライマックス、記者発表で語られた結果が、わたしはとても希望にあふれたもの、として受け取りました。

われわれは日本と言う「先進国」で生きており、主に欧米列強から輸入した「資本主義社会」にどっぷりつかっている。しかし、現代世界を見渡してみればわかるように、「資本主義のジレンマ」という問題が今世界各地で起こっている。世界的に格差が広がっている。でも資本主義に対抗するものとして生まれた社会主義を選択した旧社会主義国家の数々には未だ貧しい国もある訳です。一方で、資本主義社会にも限界がくるのではないか───?という空気も確かにいまの時代あるんです。サステナブルな社会を作るために、どう生きるか、その明確な解みたいなものはこの作品では描かれていませんけれど、現代のわれわれにとっては、心と頭のライブラリーにしまっておきたい名作でした。

東京では文化村ル・シネマで~4/27(金)まで。全国でも公開中です。

是非ご覧ください。

 

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