ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

花乃まりあ有終の美、明日海りおの代表作が誕生@宝塚花組『雪華抄/金色(こんじき)の砂漠』

今回は昨年2017年度の東京宝塚劇場のお正月公演、花組トップ娘役花乃まりあさんの卒業公演でもあった二作をご紹介します。「雪華抄」は読売演劇賞優秀賞受賞、菊田一夫演劇賞受賞の演出家、原田諒さんのショー作家デビュー作、「金色の砂漠」おそらく今宝塚で一番発表される作品に注目が集まる演出家であろう上田久美子さんのオリジナル作品です。

花組宝塚大劇場公演 宝塚舞踊詩『雪華抄』/トラジェディ・アラベスク『金色の砂漠』 [Blu-ray]

宝塚舞踊詩
『雪華抄(せっかしょう)』
作・演出/原田 諒
<特別出演>・・・(専科)松本 悠里
花鳥風月——日本ならではの風雅な趣をテーマに、華麗に格調高く繰り広げる舞踊絵巻。華やかな初春の風情に始まり、夏のきらめく波濤、秋の月、そして雪の華が舞う白銀の世界から桜花夢幻の春の讃歌へと、絢爛豪華な場面が次々に展開されます。現代的なエッセンスを加え、宝塚風にアレンジした日本古来の伝説なども織り交ぜながら、四季の美しさと艶やかさを華やかに謳い上げた日本物レビューの意欲作。
国際的に活躍するファッションデザイナー丸山敬太氏が、衣装デザイン・監修を手掛けます。

トラジェディ・アラベスク
『金色(こんじき)の砂漠』
作・演出/上田 久美子
昔々、いつかの時代のどこかの国。砂漠の真ん中にあるその王国の王女は、“ギィ”という名の奴隷を持っていた——。
自分がどこから来たのかも知らず、王女タルハーミネの奴隷として育てられた少年、ギィ。常に王女に付き従って世話をする彼は、長じるにつれ、美しく傲慢な王女に心惹かれるようになる。ギィを憎からず思うタルハーミネではあったが、王女の立場と何より彼女自身の矜りが、奴隷を愛することを許さない。タルハーミネはわざと高圧的な態度でギィを虐げる。奴隷でありながら矜り高いギィは、そんな王女を恋の前に屈服させたいと激しい思いを募らせる。
ギィの怒りにも似た愛は、やがて報復の嵐となってタルハーミネと王国を呑み込んでゆく——。
架空の古代世界を舞台に描き出される、愛と憎しみの壮絶なアラベスク

 

「雪華抄」はチョンパ(拍子木のチョンという音からパッと照明がつく演出)から開幕します。華やかな色とりどりのお着物に身を包んだタカラジェンヌ花組の組子は70人以上いるでしょうか。とっても華々しく、わたしは高いすみっこでの観劇でしたが、劇場全体が華やかな雰囲気に一気に包まれたのを感じました。全体的に「現代的な日本物ショー」といった風情で、日本物のショーはどうしても現代の観客には眠たくなってしまうようなゆったりした場面も多いのですが笑、テンポも良く、芝居がかった場面も多い。民謡などノリの良い選曲や、各スターの使い方も適材適所と言った感じでとても楽しめました。卒業する花乃まりあさんの見せ場は何と言っても安珍清姫伝説をモチーフにした場面で、裏切りに合い、蛇身に身をやつしてしまう場面。一瞬で一気に衣装と鬘を変え蛇となる。

安珍・清姫伝説 - Wikipedia

花乃さんは素顔ははんなりとした美人さんなんですが、舞台上だとカッとした険しさというか、凛とした佇まいもある方だと思います。その持ち味がよく生きていた場面だな、と。

(こっそり)日本物レビューをする時にはほぼ必ず専科の松本悠里さんが出演されるのですが、その日本舞踊の場面も音くり寿さんのカゲソロ(舞台に登場しないで歌う歌)が透明感があってとても美しくあっという間に終わり(どういう含みかヅカファンの皆様わかって下さい…)鷹と鷲の場面は4階席からはセットが高いので見切れてましたが、ロック調の音楽でカッコいい。

とにかく全編通して、とても現代の観客の目に優しい日本物ショーで、こんな日本物ショーならまた観たいな、日本舞踊もいいな、と思えるショーでした。(すみません、日本物は今の宝塚ではあまり人気のジャンルではないのです…)原田諒さんはもっともっとショーを作るべきだと思うな…美意識や舞台装置、音楽の使い方は元々センスが良いんですが、作劇能力に難アリだと思っているので、本公演のオリジナルはイマイチなことが多いんですよね。(こっそり)

 

さて、「金色の砂漠」ですが、初見で観たときは、楽しみながらもどこか暗い気持ちを引きずる内容だと感じたのですが、その後も見て、映像でも改めて観ると、やはりこの作品もスルメ(見れば見るほど味が出る)オリジナル芝居だな、と思いました。

何と言っても前作、名作「星逢一夜」で好評と同時に舞台設定の地味さ、役柄の少なさを指摘されていたのを全てクリア。宝塚らしく、役が多く、座付き作家としての演者へのあてがきがしっかり出来ている。男役は特に、どの役も人気が出そうな、個性豊かなキャラクターだったと思います。

主人公ギィは明日海りおさんの持ち味にぴったり!トップスターに就任してからこの作品まで、オリジナルでも再演でもミュージカルでも、どこか持ち味に合っているような合っていないようなキャラクターが多かったと思うのですが、ギィの内に熱い激情を秘めたキャラクターは本当にぴったりでした。花乃まりあさんのタルハーミネも宝塚の娘役としてはかなり激しい役柄で、なかなか当てられないであろうキャラクター。わがままで気位が高く、誇り高く、美しい。花乃さんのヴィジュアル、内面性と明日海さんとの関係性も非常に面白く、座付き作家だからこそ書ける役だったと思います。二番手のキキちゃん(芹香斗亜)はギィの弟、ジャー。キキちゃん生来の品の良さ、優しさが出ていて、べーちゃん(桜咲彩花)演じるビルマーヤ妃との関係性も素敵でした。(恋から愛へ…)タカラヅカ的にはジャーがビルマーヤと出奔、みたいなことがあっても良さそうですが、それをしない。また鳳月杏さんのジャハーンギールとこの当時次期花組トップ娘役に決まっていた仙名彩世さんのアムダリヤも素晴らしかったなあ。この二人のエピソードだけでも一幕物の芝居が出来そう。上田久美子先生は珠城りょうさん主演の「月雲の皇子」で、鳳月杏さんに二番手クラスの非常にカッコ良く美味しい役を当てていました。劇作家・演出家としては自分が好きな役者、やり易い役者に良い役を当てるのは当然の権利だと思いますので、鳳月杏さんファンのわたしとしては嬉しかったです。きっと上田先生も鳳月さんを買っているのでしょう。本来こっちが二番手クラスの役でもおかしくないですからね。

SNS上等でラストがぶつ切り、よくわからなかった、という意見を目にしたのですが…あれはやはり「あのギィとタルハーミネ二人の、誰も共感なんて出来ない関係性やキャラクター」に思いを馳せないと、ちょっと理解しにくいかと思います。わたしは元の性格が結構癖があるので苦笑、タルハーミネのキャラクターっていうのは非常に納得できるし、ギィとのあの最後もあのタルハーミネとあのギィならそうだろうな、そうするだろうな、と思えました。フィナーレで浄化されましたし。

花乃まりあさんは、わたしはOGとなった今もすきな娘役さんのひとりです。彼女の愛らしさ、生来の朗らかさ、聡明さ、強さ、凛々しさがすきでした。新人公演で演じたスカーレットやエリザベート。沢山の従来の娘役の型にはまらない生き生きとした娘役像を見せてくれました。あといつもファッションが素敵で…!(センスが良い~)宙組という自由で現代的な組から、花組という伝統的で男役芸と娘役芸が濃い組への組替え、下級生ながらトップ娘役への就任は、さぞかしご本人も大変だったと思います。でも、沢山の素敵な舞台姿を記憶に残してくれ、最後に娘役としてこんな大きな魅力的なキャラクターを演じて卒業されていったことを、本当に嬉しく思います。

 

東宝千秋楽も映像で拝見しましたが、花乃ちゃんのタルハーミネと明日海さんのギィの芝居が非常に熱く、より心に訴えかける出来になっていて素晴らしかったです。サヨナラショーの演出も上田久美子先生でつなぎが凝っていて楽しめました!

あ、フィナーレで、娘役としてはかなりベテランの域に差し掛かっている仙名さんをロケットセンターにするのもさすが!という感じですし、宙組から花組に組替え後初めての本公演「エリザベート」のエトワールを務めた花乃ちゃんが、最後にまたエトワールで卒業する、というのも非常に粋な計らいだな、と思いました。基本的にトップや路線スター、専科生をエトワールにするのは反対派なんですが、これは素敵だと思います。

わたしにとって、キャラクター同士の関係性や作劇を含め、何度でも鑑賞して思いを馳せたい、そんな作品になりました。

ナギナリコでした。

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