ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

朝夏まなとの正統性、静謐な美しき魂たちへの挽歌@宝塚宙組『神々の土地〜ロマノフたちの黄昏~/クラシカル ビジュー』

現在の宝塚において最も注目される演出家、上田久美子さんがまたひとつ、傑作を生み出しました。宙組7代目トップスター、朝夏まなとさんのご卒業公演でもあったこの公演をレビューしたいと思います。

 

宙組宝塚大劇場公演 ミュージカル・プレイ『神々の土地』~ロマノフたちの黄昏~/レヴューロマン『クラシカル ビジュー』 [Blu-ray]

ミュージカル・プレイ
『神々の土地』 ~ロマノフたちの黄昏~
作・演出/上田 久美子
1916年、ロシア革命前夜。帝都ペトログラードで囁かれる怪しげな噂。皇帝ニコライ二世と皇后アレクサンドラが、ラスプーチンという怪僧に操られて悪政を敷いている——。折からの大戦で困窮した民衆はロマノフ王朝への不満を募らせ、革命の気運はかつてないほどに高まっていた。
皇族で有能な軍人でもあるドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフは、皇帝の身辺を護るためペトログラードへの転任を命じられる。王朝を救う道を模索する彼にフェリックス・ユスポフ公爵がラスプーチン暗殺を持ちかける。時を同じくして、皇帝から皇女オリガとの結婚を勧められるドミトリー。しかしその心を、ある女性の面影がよぎって…
凍てつく嵐のような革命のうねりの中に、失われゆく華やかな冬宮。一つの時代の終わりに命燃やした、魂たちの永遠の思い出。

レヴューロマン
『クラシカル ビジュー』
作・演出/稲葉 太地
人の心を掴んで離さず、時に人を惑わせる華麗な宝石(ビジュー)。色とりどりの煌めきを放つ宙組メンバーを、あまたの宝石になぞらえた場面で構成するレヴュー作品です。伝統的な男役の美しさを体現する朝夏まなとの魅力を、様々な光を放つ宝石に投影し、その輝きを最大限に味わえるレヴューとしてお届け致します。

 宙組公演 『神々の土地』『クラシカル ビジュー』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

 

神々の土地は宝塚オリジナルの最高峰。憚ることなくそう言える作品だと感じています。作・演出の上田久美子さん(わたしは勝手にウエクミせんせいと呼んでおります)は毎公演チャレンジングな試みをしています。

大劇場デビュー作品『星逢一夜』は「客が入らないの代名詞」の日本物(時代劇のような着物を着た日本が舞台のお芝居)で客席を涙の渦巻き込み、連日満員にし、演劇賞まで受賞、二作目『金色(こんじき)の砂漠』では、一作目で「宝塚らしくない」、と言われた地味さを払拭、華やかで煌びやかな作品に。「役が少ない」とう前作の不満から一転、あてがきで多数の「宝塚らしく」「オイシイ」役をつくる。そして三作目「神々の土地」はこれまで積み上げてきたものをかなりそぎ落とし、ブラッシュアップ。

なにやら物騒な幕開けから、一見近くの劇場でやってるストプレのような貴族の談笑シーン。歌唱もかなり思い切って減らしていて、ほぼお芝居のみですすみます。途中入る大階段や盆の使い方も効果的で、宝塚の座付き作家の職人芸を見せてくれました。

わたしは、宝塚にはある種のお気楽さ、ともとられかねない安直さ、お約束があると思っています。トップスターは(近頃は一概に言えませんが)絶対的な主役で正義の人を演じる。そして「何かを成し遂げ、勝ち取る」そこにはカタルシスがある。大きな劇場だからフランス革命のような派手な歴史的事件が映える。だから『ベルサイユのばら』のような作品が栄える。ただ、これまでもそうだったように、個性に合わせてですから『仮面のロマネスク』のヴァルモンのような美しい悪をまとった男が主人公で、フランス革命後の混乱期を舞台にした退廃的な作品も作る。

この作品の素晴らしい美点は、悪も、善もない点。ラスプーチンは悪ではない。(余談ですがこのキャラに専科を使わないのもなかなかすごいですね、愛ちゃん!大好きな一樹千尋さん、ヒロさんでも見たい役!)ドミトリーは誠に生きようとする人ですが、派手な勝利のカタルシスを持たない人です。

負け、敗れ去るところが話の主軸です。観客は思い思いにその話の意味を、登場人物の心情を想像出来る。「わかりやすくスッキリ爽快を描いている作品」ではない、「余白がある」芝居であること。

人間の多様性、革命や戦争の歴史の奥深さ、複雑さを描いている。

この題材の海外の戯曲なら、絶対に宗教的なモチーフやエピソードをもっと前に出すと思います。でもしない。ちょっとした小道具などに留め、日本人作家が日本人に向けた作品になっている。敗者のカタルシスの魅力、とでも言いましょうか。

宝塚以外の舞台でも観てみたいような気もしますが、一方でこの作品はとても宝塚らしい作品なんですね。登場人物も多く、スケールも大きい話で、衣装も華やかで美しいものばかり。こんな予算、なかなか宝塚以外は出せないと思いますよ…苦笑 

面白いのはこの話の愛のクライマックスの描き方。愛のクライマックスはイリナの貴族の館からはじまる。ここでの一夜がクライマックスかと思えば、翌朝の雪原でのふたりのやりとりなんですよね。タカラヅカ的にはこの一夜にイリナを引き留めるドミトリーも見てみたかったと思いますが、そうしないのがウエクミせんせいのこだわりなんでしょうね。

そして素晴らしいカタルシスに満ちたラスト。今でも、ずんちゃん(桜木みなと)のカゲソロ(1人で裏で歌うソロ曲)を聞くと感極まってしまいます。

大地ではなく、土地。

沢山の魂のよりどころが集う、美しき土地、ロシア。

 

色々な方が色んな考察をされておりますのでブログ巡りなどされると楽しいのでは、と思います。ひとまず私はここまでで幕を下ろします。

 

『クラシカル ビジュー』は…わたしは稲葉太地さんは好きなショー作家のひとりですが、やっぱり冷静に観て凡作のレベルのショーだと思います。特にあのカラフルな泡立て洗濯ネットの袖の衣装どうにかならなかったかな…笑 宝石モチーフや宝探しの旅や、サンゴの場面は見飽きたというか、既存のショーの焼き直し感がすごい。宝塚だから許されるラッキースケベ的な場面があるんですが、わたしはあまりすきではない。5場、Ruby(よみがえる熱情)、フリージャズはいいとしてもトップスターラストのショーの場面としては辛いし、8場、Cats eye(その名は紳士)は次期トップの場面としては皮肉が効き過ぎている。中詰めエルドラードのキラキラもやっぱそうだよね…という見飽きた感(スカステで、俄なので)でもやっぱり好きなのが稲葉ショーの品の良さなんですけどね。

あと黒燕尾が壮大で美しい!まあ様(朝夏まなとさん)の退団の餞として、スタンダードでクラシックな黒燕尾が最高にいい。素晴らしかったです。

 

最後に一つ。伶美うららさんは一作でもきちんとトップ娘役扱いをするべきでした。その時はこの両作品は全く毛色の違ったものになったでしょうね。

明るい宙の太陽のようなまあ様が、みんなに囲まれて笑顔で卒業されていく、けれど、この寂しさ、切なさ。伶美うららという稀有な美しさを持った娘役がいたこと、この作品を、朝夏まなと宙組を観劇できた喜びをずっと覚えていることにしましょう。

 (まあ様に客席降りで絶対目線もらったことも忘れない)

 

重要告知!

NHK収録版の放送が明日、3/19月、15:00〜BSNHKであります。

www4.nhk.or.jp

追記:放送終了しておりますが、8/17(金)午前0時45分~ 午前3時25分にBSプレミアムで再放送予定です!!

再放送予定 - 宝塚歌劇 - NHK


NHKの画質は大変美しく、貴重な放送回となります!みなさま録画、視聴の準備をお忘れなく!

 ではまたお会いしましょう〜ナギナリコでした!