ENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

エドガーはいた。明日海りおである@花組『ポーの一族』

萩尾望都さんの傑作少女漫画を宝塚で初めて舞台化、ということで大変話題の公演でした。宝塚でしか出来ない演目ですね。宝塚を見ると「美は尊い…!」って気分によくなります、ナギナリコです。こんにちは。

 

ミュージカル・ゴシック
ポーの一族
原作/萩尾 望都「ポーの一族」(小学館フラワーコミックス)
脚本・演出/小池 修一郎

1972年に「別冊少女コミック」に第1作目を発表以来、少女まんがの枠を超えて幅広い読者を獲得してきた、漫画史上の傑作・萩尾望都の「ポーの一族」が宝塚歌劇に登場する。
永遠に年を取らず生き永らえていくバンパネラポーの一族”。その一族に加わったエドガーが、アランやメリーベルを仲間に加え、哀しみをたたえつつ時空を超えて旅を続けるゴシック・ロマン。同作品をミュージカル化したいと夢見て宝塚歌劇団に入団した小池修一郎が、1985年に「いつか劇化させて欲しい」と申し出て以来30年余り、萩尾望都があらゆる上演希望を断り続けた幻の舞台が遂に実現する。

 

 花組公演 『ポーの一族』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

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名演出家・小池修一郎ここにあり…!という出来でした…!さすがイケコ(小池先生の愛称)が「長年温めてきた作品」なだけある…!と。

原作は哀しき運命を背負ったバンパネラ(要は吸血鬼)の一族、主人公エドガーやその周辺をとても繊細に描いた短編集です。全五巻。最近新刊が出ました。

ポーの一族(1) (フラワーコミックス)

ポーの一族 ~春の夢~ (フラワーコミックススペシャル)

原作は時系列も前後したりするので、よくまとまってるな~と思いました。狂言回しとして4人の「バンパネラ研究家」「ポーの一族と関わりがあった人物の子孫」等を配し、原作のわかりにくいところをうまくアバンで見せ、ほぼクライマックスまで見せる。そして回想的に物語を紡ぐ。ただ、それでもこの作品はただのダイジェストになっていない。

明日海りおのエドガー、『金色の砂漠』のギィに続いてハマリ役・アタリ役なんじゃないでしょうか。彼女の持ち味の中性的な部分、繊細さ、孤独をまとう陰性の魅力。

それが存分に生かされた演目だったように思います。

この公演から二番手昇格の柚香光(ゆずかれい)ちゃんはエドガーの片割れともいうべき、アラン役。小顔で美形の男役なので、二人が並ぶと眼福眼福……(ため息)

けれど芝居と歌は更なる鍛錬が必要かなあ…エドガーとアランって似てるとこ(心が共鳴しているところ)と似てないところがあるキャラだと思うんですよ。アランってちょっと粗野なところもあるし。台詞回しは明日海さんそっくりで、なんだか芝居や声、存在が前に出てこない。二幕のクライマックスの慟哭は良かったと思いましたが、一幕はちょっと演技が浮いているような気もしました。

トップ娘役、仙名彩世さんはエドガーの義理の母的存在・シーラ役。ポーツネル男爵(瀬戸かずや)との結婚式のシーンから描かれます。ゆきちゃん(仙名彩世さんの愛称)のシーラのなんて美しいこと!メイクやアクセサリー、ドレスでの所作、表情、角度、どれも至高の娘役芸を見せてくれます。なんだか難しそうなソロ曲もあり、抜群に、圧倒的に上手い…!ゆきちゃんがいるからこそ、花組の、宝塚の芸のレベルが上がる、とさえ思いました。フィナーレせり上がり、みりおちゃんとのタンゴのデュエットダンスも素敵だった~!

他に印象的な役としては鳳月杏さん演じる医師クリフォード。明日海さんとも仙名さんとも絡みがあり、クライマックスの重要な場面を任される等、色々とオイシイ役。

クリフォードって原作だとただの嫌なヤツっぽいですが、宝塚版のちなつさん(鳳月さんの愛称)だと色気があり、いろんな意味でいやらしく(そういうことです)、誠実さも兼ね備えた人物として描かれてました。イケコ、ちなつさんすきなの?←(…わたしは好きです・告白) 瀬戸かずやさんの男爵はダンディおじさまなんだけど、ちょっと怒り方にバリエーションが欲しいところ。華優希ちゃんのメリーベル、娘役芸はさすがにゆきちゃんとは比べられないですが、そのいじらしさ、可憐さ、バンパネラであることをきちんと表現していたと思います。

わたしの大好きな専科生、一樹千尋さんも大老ポーとして出演。さすが、空気を絞めてくれます。本当、この人女性なの…?って言う男役芸ですよね。ずーっと宝塚にいて下さいね…!

さて、ここまで書いてきて、ポーの一族、大満足!なんか韻を踏んだ)と言いたいところですが、ちょっとこれはどうだろう…?と思ったところもあります。

以下、完全にネタバレになりますのでご注意を。

全体的にエンタメエンタメしすぎている、という印象を受けました。どこか月組『All for One』を引きずった音楽、装置、演出で、ヒップホップやポップスっぽい曲も多く、意外にポップ。原作の繊細な空気感、民族的、クラシック等の音楽を期待していたわたしは、特に音楽から肩透かしを食らいました。印象に残るのが「ポーの一族~♪」しかない。わたしは萩尾望都さんの熱烈なファン、というわけではありませんが、マンガ好きなら世代でなくても知っている・読んでいる古典的名作少女漫画です。原作と同じ色を使っているのに、舞台の色合いが違う。そして気になったのは学校でのシーン。若手男役を沢山出すのは良いんですが、騒々しすぎやしませんか?もっとほのかな耽美、色気を加えて欲しい。あとラストは完全に蛇足だと思いました。クレーンは許すとしても、エドガーとアラン、二人で幕、で良かったのでは?それかヒップホップなんか使わず、もっと静かに「そこ」にバンパネラはいる、「今もどこかにエドガーとアランがいるかも…」とした方が良かったのでは…?例えばライトを当てないで客席からいつのまにか登場させ、生徒役の子達に存在を認識させ、最後静かに銀橋で客席を振り返る、とか。

そこが、とにかく不満でした。大劇場2500席、というキャパはあまりにも繊細な表現にしてしまうと空間が埋まらないからなのかもしれません。が、やはり「ポーの一族」というのはもっと静謐で、繊細な世界観だと思うんです。もしかしたらバウホール500位のキャパでやるのがちょうど良いのかもしれない。

というわけで、全体的にはこの舞台化には満足ですが、納得いかないところを綴ってみました。もう明日海りおという稀有な存在がいなきゃ再演なんて出来ないだろうから、特にそう思ってしまいます…。

 

あっ、初めて東宝で公演デザートを食べました。その名も「ハンパネーヤ!いちじく」。…わたしはやっぱりカルーアソフトクリームゼリー派です。

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追記:最近読んだ藤本真由さんの劇評が素晴らしかったので、リンクしておきます!

藤本真由オフィシャルブログ: 宝塚花組と少女漫画その2)すべての穢れなき者たちへ〜宝塚花組『ポーの一族』

 

 

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